研究課題/領域番号 |
22K18552
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
太郎丸 博 京都大学, 文学研究科, 教授 (60273570)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | スノーボール・サンプリング / モンテカルロ・シミュレーション / 有意抽出 / 小規模調査 |
研究実績の概要 |
スノーボール・サンプル (SS) を使って特定のカテゴリ(便宜的に A と呼ぶ)に属する人の比率を推定する場合、どのような場合にどの程度のバイアスが生じるのか、モンテカルロ・シミュレーションで検討した。母集団はスモールワールド・ネットワークを形成していると仮定し、クラスタリングの程度、母比率、サンプルサイズ、最初に抽出する対象者、推定法を変えてすべての組み合わせで 20 回サンプリングを繰り返した。その結果以下のことが分かった。 1. SSでも標本規模が大きくなれば誤差は減少する。50人ぐらいまでは顕著な減少が期待でき、これはランダムサンプリングと大差ない。英米の質的研究では 50人以上にインタビューすることが標準のようであるが、この慣行の合理性が本稿のシミュレーションで裏付けられたことになる。 2. 比率を推定する場合、点推定値の誤差は、単純な標本比率のほうが、誤差相関モデルよりも小さい。しかし、 95% 信頼区間は誤差相関モデルのほうが正確である。誤差相関モデルから得られる 95% 信頼区間を若干広くしたぐらいが、適切な信頼区間となるようである。 3. SS の出発点となる最初の対象者は、次数中心性の高い人であっても誤差は減少しない。こういった人に次の対象者を紹介してもらえれば、簡単に多数の対象者を見つけることができるかもしれないが、これは場合によってはサンプルのゆがみを大きくする場合もある。次数中心性の高い人から SS をスタートするメリットがあるのは、A の比率が著しく 0 または 1 に近い場合や、母集団の誤差相関が強い(A に属する人の知人もほとんど A に属する)場合だけで、そうでなければむしろ誤差は大きくなる。平均的には、ほとんど A の知人しかいない人からスタートした場合と差がなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本学術振興会学術システム研究センターの研究員を兼務しているが、この業務に想定以上に時間をとられている。また本務校の業務も近年ますますの増加で、このプロジェクトのために当初想定していたほどのエフォートが割けなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は小規模の社会調査をしている社会学者にインタビューし、実際のサンプリングがどのように行われているのか明らかにしていく予定である。特に回答の自己相関がどの程度か調べる。有意抽出がバイアスを生じさせる理由の一つとして、抽出確率が独立でない(例えば、最初に男性を抽出すると、次も男性が抽出されやすくなり、その結果、サンプルの男性比率が母集団のそれよりも大きくなってしまう)ということが考えられる。抽出確率が独立でないのは、母集団の中のサブグループの中から複数の対象者を抽出したり、対象者に対象者の知人を紹介してもらったりするからである。小規模調査の対象者どうしが知人であることは珍しいことではないが、もしも上記のような抽出確率の自己相関があるのならば、知人どうしの回答は似通ったものになるはずである。そこで本当にそのような自己相関があるのか調べる予定である。 小規模の調査を行った社会学者に、個々の回答者の主要な回答と回答者どうしが知人であるかどうかを尋ねる。これをもとに自己相関を調査ごとに推定する。推定には空間回帰分析で用いられる方法を流用することができる。すでに学部や収支の学生の行った小規模調査について上記のような対象者間ネットワークを調べ始めており、このようなデータをさらに増やしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗がやや遅れており、調査が実施できなかったことが主な原因である。他の業務が多忙なのは 2024年度も同様なので、当初 3年の研究計画を 4~5年かけて実施することを計画している。2024年度は今年度実施できなかった調査を実施し、調査の謝礼や出張旅費に助成金は使用していく予定である。2025年度に分析結果をまとめて出版や学会発表などを行う予定なので、そのために助成金は使う予定である。
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備考 |
上のWEBページは学会報告の増補資料
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