研究課題/領域番号 |
22K18592
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 真理 九州大学, 基幹教育院, 教授 (70274412)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 障害ユーモア / 障害理解 / インクルーシブ教育 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究では,ユーモアを障害理解教育に取り入れることが,学習者の意欲や知識,態度に与える影響について検討し,インクルーシブ社会の実現のために使用するべきユーモアの種類や使用方法についての視座を得ることを目的とする。この目的のために、大きく三つの研究で構成し、2022年度(研究Ⅰ)では,ユーモアの中でも,特に「障害に対して否定的な態度を形成しやすい」という問題にアプローチすることのできる「障害ユーモア」に着目し、障害ユーモアが障害理解に与える効果について検討した。障害当事者が描いた障害ユーモア漫画の呈示による介入を行い,介入前後の学習者の知識や態度を比較することにより,障害ユーモアが障害理解教育において有効であることを実証的に検証した。 特に発達障害理解に注目し、接触経験を統制したうえで、「障害ユーモア介入群は,統制群に比べ,発達障害に対する知識得点及び態度得点が高くなる」という仮説を検討した。大学生22名を対象とし、発達障害に関する知識問題13項目・発達障害者に対する態度18項目を質問した。介入については、①障害ユーモア漫画刺激(介入群)②統制漫画刺激(統制群)を設定した。その結果,知識得点および態度得点においては,両群の変化量に有意な差は見られなかった。漫画の感想については、障害ユーモア群では,「漫画だから親しみを持って気持ちを寄せることができた」,「いつもの漫画を読む感じで楽しく読めた」等,漫画という形式であることによる効果についての回答が多く得られた。統制群では,「障害の大変さが分かった」,「自分だったら困るだろうなと思った」等,障害の困難さに目を向けた回答が多く得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大学生22名(男性11名, 女性11名;M =20.5 , SD = 1.44)を対象とし、介入研究をすすめることができた。介入刺激として用いる漫画の作成に多くの時間がかかったが、①障害ユーモア漫画刺激(介入群):「毎日やらかしてます。アスペルガーで,漫画家で。(沖田×華)」シリーズ2冊から,AS(アスペルガー障害),ADHD(注意欠陥多動性障害),LD (学習障害)の特性について解説しているエピソードを抜き出した。代表的とされる特性を取り上げており,かつ面白く,話の前後を知らない参加者でも楽しめるエピソードを選んだ(今回選んだ特性:ASD…コミュニケーションの苦手さ・過集中・こだわり,ADHD…不注意,LD…計算の苦手さ)。②統制漫画刺激(統制群):障害ユーモア漫画のユーモアの要素(表情,動き,擬音,くだけた言葉遣いの台詞)を除外し,他の要素(内容,場面設定,ページ数,色,情報量)を統制した漫画を独自に作成することができた。以上の進捗状況によって、2023年度の介入方法について具体的な示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
仮説とは異なった結果であったが、以下の3点を課題として得られた。まず,受け手のネガティブな感情の生起の抑制である。調査では,「笑ってはいけない」という気持ちから,態度の変容が見られない場合が多く見られた。障害ユーモアは攻撃的ユーモアに該当し,障害当事者が経験する困難を笑いとして取り上げるため,受け手は抵抗感を抱きやすい。そのため,以降では,障害当事者の困り感を直接取り扱うユーモアや障害を自虐するユーモア等の,「笑えない」といった抵抗感を抱かせるようなユーモアを限りなく排除する必要がある。 次に,教材の内容の再検討である。研究Ⅰでは発達障害の特性についての知識を教示するのみにとどまり,インクルーシブ社会や障害の社会モデルの考え方等,障害理解の基礎となる部分の理解ができなかった。そのため,発達障害に限定せず,障害全般に関することを学ぶことのできる教材を使用する必要があると考える。このことによって,より効果的な障害理解教材を作成することができる。 最後に,ユーモア教材が受け手に与える効果の再検討である。研究Ⅰでは,ユーモアのある教材を使用することにより,教材の内容に対する興味関心が引き出される可能性を見出すことができた。顕在的態度指標のみでは捉えきれない潜在的態度が存在する。ユーモアのある教材を使用することによる受け手の態度変容をより詳細に捉えるため,今後は潜在的態度についても検討する必要があるだろう。以上の課題をもとに次の研究計画を作成していく。
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