本研究は自閉症スペクトラム障害(ASD)に見られる感覚過敏/鈍麻と読字困難感の関係に着目し、ASDの羞明による読字困難感の客観的な評価手法としての瞳孔計測の有用性を検討することを目的とする。ASDは社会的な相互作用やコミュニケーションの困難さ、反復的な行動や関心の狭さなどを特徴としているが、視覚特性の特異性が学習の遅れに繋がると考えられている。本研究では定型発達群を対象とした実証実験により、ASD傾向と読字能力及び自律神経の働きの関連性を検討した。 実験の参加に同意した健常な視力を有する成人男女18名を対象として、読字課題中の瞳孔径の変化を計測することで、読字中の自律神経の働きと自閉症スペクトラム傾向との関連を検討した。読字課題実行時間は、背景色の主効果、文字パターンの主効果、交互作用のそれぞれで有意でなく、条件間に差は見られなかった。また、実行時間と自閉症スペクトラム傾向との間には、有意な相関関係は見られなかった。背景色黒、文字色白で漢字の単語を呈示した際の実行時間と課題中の瞳孔径の平均値の間には有意な負の相関が見られ、課題実行中の瞳孔径が大きいほど、実行時間が短くなる傾向が明らかになった。 本研究結果は、当初の目的であった自閉症スペクトラム障害における自律神経系と読字困難感の関係性を明らかにするには至らなかったが、瞳孔計測による自律神経系の活動傾向の評価が読字困難感の早期発見に有用である可能性を示した。本研究は、読字困難感に対する支援基盤構築には、本質の理解と客観的指標による評価法の確立の重要性を示すとともに、教育場面における独自困難感への合理的配慮の提供に向け、一定の成果をもたらすことができた。
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