研究課題
自律感覚絶頂反応 (ASMR) とは、視聴覚体験にともなって頭皮や首筋に生じる、心地よいゾクゾクする感覚である。ほとんどの先行研究では、ASMRを惹起させる文脈や個人特性が着目されており、外的な刺激がどのような影響を及ぼすのかという問題が見過ごされている。そこで、ASMRのトリガーとなる刺激の音響特徴量を分析して、ゾクゾク感に関係する要因を検討した。1)トリガー刺激の音響特徴量: 研究対象者17名から得られた心理データをもとに、ゾクゾク感と刺激の音響特徴量との関係を分析した。ゾクゾク感を予測しうる音テクスチャをL1正則化線形回帰によって特定した。ASMRの反応前1,500 msから750 msの区間における、高周波数帯域の包絡線が関係していた。すなわち、5 kHz付近の振幅が小さくなると、ゾクゾク感の主観的な強度は増大することがわかった (r = 0.52)。この結果は、独立した音刺激を用いてさらに外部検証された。一方で、心地よさの主観的な強度を予測するには上記よりも3倍長の時間窓が必要であり、その予測精度も低かった。2)波及効果: 研究代表者は、学術雑誌 "Philos Trans R soc B" から Lead Guest Editor として招聘された。専門家を対象とした、本研究に関連する特集号 "Sensing and Feeling" を編纂中である。3)アウトリーチ活動: 一般読者を対象とした、ASMRに関する書籍(共著)1件を刊行した。大学生および非専門家を対象とした講演1件をおこなった。高校生を対象とした模擬講義2件をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
2022年度に続いて、予定していた心理実験を完遂し、得られた心理データを分析することができた。その結果をもとに数編の学術論文を執筆して、投稿中あるいは査読中となっている。出版社からの勧めもあり、一般読者向けの書籍を上梓することができた。
ASMR体験に対する主観的な指標だけではなく、客観的な指標を得るため、研究対象者の指尖容積脈波を計測している。現在、左記の身体生理データの収集を本格的におこなっている。2024年度の第1四半期までに分析を完了させ、2024年度末までに学術論文を執筆、投稿予定である。
当該年度から学部長に就任したため、授業に加えて校務や管理業務で多忙となり、予定していた学会等に参加できなかった。そのため、旅費などを含めた全体の支出額が相対的に減少した。研究計画調書の提出時点では想定できなかった事態であるが、研究自体は順調に進捗しており、具体的な研究成果も得られている。次年度に投稿中の論文が採択された場合、掲載料が必要となる。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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https://hk-lab.github.io/