研究課題/領域番号 |
22K18661
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (40512736)
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研究分担者 |
村井 翔太 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任研究員 (40966107)
伊藤 優樹 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (70962017)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 音声学習 / スナネズミ / 共感 / 音象徴 |
研究実績の概要 |
共感および信頼の醸成に果たす「音声」の役割の解明を目指し、ヒトおよびモデル動物を対象に実験を実施した。ヒトをふくむ動物において社会生活を営むうえで、他個体を認識し、心を読み取る共感システムは必須である。特に母子間音声コミュニケーションは成長後の社会活動における共感を支える生物学的基盤となると考えられる。ヒトを対象とした実験では、乳幼児期の音象徴をターゲットとした。同現象は音と意味の間の恣意性の低い対応関係であり、文化・地域を越えて広く共有される音象徴の感覚は、共感性の生物学的基盤と考えられる。これまでの成果から、音象徴の感覚が月齢12か月前後の乳幼児期に母語特異的な発達を遂げる可能性が示された。つまり、乳幼児が親の母語音声を模倣して言語を獲得することが、音象徴感覚の発達に影響を与えることを示唆する。 動物をもちいた実験では、昨年度に引き続き、母親と幼獣を1日母子分離することによって、幼獣スナネズミが母親との分離時に発する音声の影響を調べた。母子分離された幼獣スナネズミは、発声回数が低下し、周波数の変調度が小さくなり単純な音声を発していた。母子分離を経験したスナネズミ同士を一緒にすると、母子分離を受けていないスナネズミ同士の群に比べ、2匹の接触時間が短く、発声回数が多くなった。特に警戒時に発する音声を発していた。これらの結果は、幼少期の個体間関係(経験)は、音声コミュニケーションの障がいを介して成長後の共感性に影響を与える可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に確立したヒト(乳幼児)およびモデル動物(スナネズミ)を対象に音声と共感性の関係を研究するための実験系を用い、個体発達の初期においては音声が媒介する共感性(音象徴)を中心として社会性が獲得される可能性が見出された。来年度はこれらの実験を推進することで、系統間で普遍的なモデルについて検討することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後ヒトを対象とした実験では、音象徴の発達に関わる要因を探索して(発声の発達など)、音象徴の生物学的基盤が形成される過程を明らかにする。一方で、音象徴感覚が脳内でどのように表現されているのかは成人においても未解明の問題である。成人において音象徴感覚が生じる神経科学的基盤の解明に向けて、機能的MRI研究を進めている。現在、日本語母音および子音と音象徴感覚の対応関係を網羅的に調べる実験系を開発している。この実験系により得られる音象徴感覚の行動データをもとに、音象徴の神経表象を解明する。 また動物を用いた実験では母子分離ストレスによって幼獣期だけでなく、成獣となってからも音声に影響が生じることが明らかになった。特に、新奇個体への接触時間の低下と警戒音声の発声回数の上昇は、社会性の低下を示している。そのため次年度は社会性と関係のあるオキシトシン産生細胞の定量化を行う予定である。また、オキシトシンを投与することにより社会性及び音声が回復するかを確認する。これにより音声を介した共感を支える神経科学的基盤にアプローチできる。また、社会性テスト時に各スナネズミのどちらが音声を発しているかを区別するシステムの確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
被験体動物の購入費用は、施設内繁殖や実験条件を再設計することで減少した。 また、ヒト実験において実験時間を短縮するなどしてコスト削減が可能になった。 一部の実験機材については他研究との共有化をすすめたことで購入が不要になった。 来年度は、これまでの実験成果を精緻化するために必要となるデータ確保や生理学データ取得に必要となる試薬購入などに資金を充当する計画である。
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