研究課題/領域番号 |
22K18674
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 宏志 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00362583)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 逆問題 / 非適切問題 / 楕円型方程式のCauchy問題 / 不安定性 / スペクトル解析 / 特異積分方程式 / 連立一次方程式の条件数 |
研究実績の概要 |
本年度は,本研究の契機となった画像再構成問題に関連して,そこに現れる特異積分方程式のある離散化スキームの不安定性を調べた.その結果,多くの応用逆問題と同様に不安定ではあるものの,その不安定性が応用上一般的な規模の数値計算では深刻でないことを示した.具体的には,不安定性の指標のひとつとして知られる連立一次方程式の条件数が,分割数に対して高々線型オーダーでしか増大しないことを示した. 楕円型方程式の初期値問題の典型例である Hadamard の反例では,解が一意に存在するが,誤差が指数的に増大するものである.これは応用分野でもよく知られており,楕円型初期値問題の困難さといわれる.今年度取り扱った問題は異なる定式化であり,研究申請の段階で,実測値をもちいた事例研究によってそのような指数的増大が生じないことは判明していたが,それがこの事例に特有のことなのか,どこまで一般的なのかが明らかではなかった.また従来からこの方程式が点スペクトルの「境界」に位置しており,一般的な関数解析の議論によってスペクトルに属する,すなわち解が一意でないか,もしくは不安定であるかのいずれかであることはわかっていた.申請者と海外の研究協力者によって自然な設定で解が一意であることが再検証され,「不安定」であることはわかったが,どの程度不安定なのかは明らかでなかった.そこで今年度,数値解析の視点から,不連続Galerkin法による離散化で得れる連立一次方程式の条件数が分割数の高々1次で増大することがわかった.これは,研究申請時に得ていた事例研究の結果が,ある程度一般的に成立することを示すものであると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の契機となった問題の理論的数値解析が十分に進展し,特に条件数をもちいて離散化の定量評価の一例を与えることができた.これにより,従来の数学解析的手法では不安定性がわかるものの,どの程度不安定なのか,という点が答えられなかったが,この点について理論数値解析的手法で答えることに成功した.この結果などを総合的に判断して,今年度は「おおむね順調に進展している」といえる.
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今後の研究の推進方策 |
楕円型方程式の境界値問題について,その不安定性の方程式・設定固有のものとしての性質を明らかにする.例えば,直接的に解を構成する,反例を構成するなどの手法により,定式化や離散化が不安定性にどの程度影響を及ぼすのかを調べる.今年度適用した不連続Galerkin法は,離散化の精度そのものは高くないが,それ故に,方程式の性質も充分に近似しないということが考えられる.したがって,元の方程式が指数的な誤差増大を引き起こすなど,深刻な不安定性 (severely ill-posed) を有していても,その不安定性をどの程度反映しているかは明らかではない.そこで,より精度の高い離散化をおこなうと不安定性がどうなるのかを調べることは,方程式の性質を明らかにするうえで有用と考えられる.そのために数値実験を多数おこなう必要もあるため,本年度は高性能な計算機を研究室に導入する予定である.また,楕円型方程式の初期値問題に対して異なる手法の数値計算可能性や数値的性質を調べる.また,必要に応じて国内外の応用数学・逆問題の研究者と意見交換をおこない,研究の妥当性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は楕円型方程式の初期値問題の解の構成に現れた特異積分方程式についての理論研究が進行したため,そちらに集中した.次年度において,その理論を検証し,さらに実際に数値計算をおこなうための計算機の購入を予定しているとともに,その結果を検証するために海外の研究協力者を招聘または訪問する予定である.
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備考 |
数値計算における不安定性,特に丸め誤差の影響を検証する多倍長計算環境を独自に実装し,公開している.
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