研究課題
本研究では、バンド間遷移を起こさない、フォノンを励起することによるシフト電流の観測を狙う。シフト電流は光励起時の波動関数の変化に伴う電子分極の変化が本質的起源であるため、フォノン励起時における波動関数変化が大きいほど高効率な光電流生成が期待できる。したがって候補物質として、大きな振動子強度を持ったソフトフォノンを有するBaTiO3やSbSI、巨大な電子分極を有する有機強誘電体TTF-CAなどを計画している。またこれらに加えて、電子励起による巨大なシフト電流が報告されているポーラーな結晶構造をもつワイル半金属TaAsも重要な候補である。この物質では、フォノンとトポロジカル電子構造が強く相互作用するという報告もなされているため、フォノン励起についても同様に大きな効果が発現する可能性がある。初年度では、まずパルス面傾斜法を用いることで高強度テラヘルツ光を発生させ、光電流をオシロスコープによって取り込む測定系の整備を行い、十分な精度を実現した。その後、上に挙げた物質のうち、変位型強誘電体のBaTiO3およびSbSIの測定を行った。どちらの物質においてもテラヘルツ光照射によって光電流の観測に成功した。また、理論研究との比較を行い、シフト電流機構に由来していることを示した。さらに、周波数応答や光電流生成効率の定量的評価も行い、他の物質の電子励起におけるバルク光起電力効果の効率と比べても大きな値であることを示した。前者の研究については論文としてまとめ、PNASに出版された。
1: 当初の計画以上に進展している
最も大きな目標であったフォノン誘起の光起電力効果の観測にBaTiO3において成功し、理論計算とも比較することでシフト電流機構であることを実証することができた。また、論文としてまとめPNASに出版されている。さらには、この現象を別の強誘電体SbSIにおいても観測することができ、普遍性を確認することができた。また、SbSIについては光電流の周波数応答や定量的評価も行うことができた。このように、フォノン誘起のシフト電流という新現象の機構や特徴について順調に明らかにできている。
これまでの研究では、変位型強誘電体のソフトフォノンに注目して研究を行ってきた。今後は、電子型強誘電体TTF-CAやポーラーな対称性を持つワイル半金属TaAsについても測定を行うことで、フォノン誘起のシフト電流の概念をより拡張していきたい。
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npj Quantum Materials
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