研究課題/領域番号 |
22K18687
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 修一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30282685)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | トポロジカル絶縁体 / 平衡形 / 結晶成長 / 表面状態 / 表面エネルギー |
研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体や高次トポロジカル絶縁体ではトポロジカルな状態が表面の形状に敏感な形で現れる。本年度はその電子状態と結晶形状の関連について以下の成果を得た。 (1) 映進対称性に守られたトポロジカル相においては、結晶表面のミラー指数の偶奇によってトポロジカル表面状態の有無が異なり、トポロジカル表面状態が現れるような表面は表面エネルギーが高くなるため、そうした表面がでにくくなることをモデル計算により確かめた。さらにこのような偶奇性によるトポロジカル表面状態の有無をKHgSbでの表面状態の数値計算により確かめた。この結果は、結晶形状をトポロジカルな電子状態と関連付ける初めての研究である。 (2) 3次元高次トポロジカル絶縁体のコーナー電荷については、対称性も結晶形状も複雑でNaCl型結晶などの簡単な場合にのみ先行研究がある。そこで3次元での一般論構築を行った。コーナー電荷の量子化のためには、結晶形状が頂点に対して推移的な多面体(全ての頂点が対称操作で移り変わる)である必要があり、そうした立体のさまざまな一般形について網羅的に、コーナー電荷の定式化を行うことができた。このような頂点推移的な多面体はsphericalとcylindricalな系列があるが、前者について、対応する立方群ないし正四面体群の対称性に属する全ての空間群に対して、コーナー電荷の実空間での公式を確立した。さらにそれを波数空間での公式に書き換えることができた。この結果は第一原理計算などと組み合わせて実際の物質での計算をする際に有用である。なおここでは、空間群によっては、新たなZ2トポロジカル不変量を導入する必要があり、それを導入した結果、EBR(elementary band representation)行列の方法を通じて、コーナー電荷があいまいさなく決められる公式を得た。またヒンジ電荷密度の公式も計算できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
結晶形状とトポロジカル相との関連については、模型での計算のレベルである程度一般性のある結論が得られた。本年度は主に映進対称性に守られたトポロジカル相を扱ったが、今後さまざまなトポロジカル相へと展開できる余地が大きい。さらに実験や第一原理計算での研究への波及効果も期待される、重要な成果を得られた。また3次元絶縁体のコーナー電荷については、さまざまな結晶形状や空間群を網羅的に扱い、多数の場合を扱う必要があったが、結果的にはコーナー電荷の実空間の表式は全て同一の形になるという美しくかつ一般性の高い結果を得ることができた。またこれを波数空間の公式に書き直す際に困難があったが、共同研究者との共同研究を通じてその困難を解決することができ、全ての場合について対応する公式を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
さまざまな結晶形状とトポロジカル相との関連について、映進対称性で守られたトポロジカル相について得た成果を参考に、さまざまな他のトポロジカル相、例えば鏡映対称性で守られたトポロジカル相、高次トポロジカル相などに応用する。また候補物質の探索も進める。また3次元絶縁体のコーナー電荷については、さまざまな結晶形状や空間群に関する研究成果について論文にまとめるとともに、コーナー電荷の公式の物理的な解釈・候補物質の探索・他の結晶形状(特にcylindricalな系列の結晶形状)への展開について検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実地参加を予定していた学会がコロナ禍によりオンライン開催となったため、そこに計上していた旅費の分を次年度使用額として、本研究における成果発表旅費として充当することとなった。
|