研究実績の概要 |
色素フェノールブルー(PhB)の可視吸収帯は、電荷移動遷移に起因するため、PhBは溶媒によって吸収波長が変化するソルバトクロミズムを示す。また、励起状態から超高速で起こる無輻射失活過程は、電荷再結合過程に相当し、PhBは無蛍光性でもある。そこで、PhBの吸収帯の短波長側と長波長側の2つの励起波長で、フェムト秒時間分解過渡吸収スペクトル測定を行った。その結果、プロトン性溶媒中では吸収スペクトルに不均一性が存在することが判明した。この不均一性はエタノール(EtOH)よりもメタノール(MeOH)溶液中で寿命が長くなる。DFT計算の結果、複数の溶媒分子がPhBと水素結合すると、エネルギー障壁が十分下がり、PhBのベンゾキノン部位の回転が可能となる。よって、ベンゾキノン部位のねじれ角に由来する不均一広がりが、プロトン性溶媒中で発生していると考えられる。MeOH溶液中では、多数の溶媒分子がPhBと水素結合を形成しているため、そのうちの一部が切断されてもPhBの構造は固定されたままであるが、EtOHの場合、エチル基の立体障害のため、MeOHほど多くの分子が水素結合できず、このような構造の固定は起こらないことが示唆される。 また、アモルファス中にドープすることによって、PhBの無輻射失活を阻害することが可能かどうか確認するため、PhBをポリメタクリル酸メチル(PMMA)中に封入して同様な実験を行った。その結果、PhBの励起状態寿命はポリマー中でも溶液中と変わらず500フェムト秒程度であり、無輻射失活は抑制されていないことが判明した。PhBの無輻射失活は大きな分子構造の変化をともなわず、高波数の分子内振動を通じて起こることが示唆された。そこで、これらの結果を論文としてまとめ発表した。【T, Hidaka, et al., ChemPhotoChem, 8, e20230016 (2024)】
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