研究課題/領域番号 |
22K18707
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村松 憲仁 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (40397766)
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研究分担者 |
神田 一浩 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 教授 (20201452)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 光子ビーム / コンプトン散乱 / 軟X線 / 多層膜ミラー / アンジュレータ |
研究実績の概要 |
2022年度は、アンジュレータから放射される92eVの軟X線を180度方向へ反転反射する多層膜ミラーを開発し、その性能試験を進めた。熱負荷による多層膜の損傷および反射面の歪みを抑えるため、ミラー基板をシリコン製で16mm厚のものとし、以前の低膨張ガラス製5mm厚の基板より水冷ホルダーへの熱伝導性と歪み耐性を改良した。反射面に流体研磨を施すことによって、原子間力顕微鏡で測定された面粗さを80×80平方ミクロン当り0.2nmにまで改良し、反射する軟X線の波長13.5nmに比して十分な精度を達成した。研磨した反射面には50層のMo/Si多層膜を形成し、本研究を進めているニュースバルにおいて実際に92eV付近の軟X線を照射した結果、最大で65.8%の反射率が得られた。これは理想条件における計算値に近く、散乱・拡散成分も十分に抑えられていることが確認できた。その後、開発した多層膜ミラーをコンプトン散乱の実証実験が進められているビームラインチェンバー内に設置し、アンジュレータ放射光の反射試験を行った。放射および反射X線のビームプロファイルと相対強度を既設のワイヤースキャナー式検出器で測定し、反射光をほぼ計画通りの強度で確認することに成功した。水冷ホルダーへの多層膜ミラーの設置においては、隙間にインジウムシートを挿入する工夫を行い、ミラー温度のモニターで大きな上昇が見られなかった他、3日間の長時間照射で反射率の低下も起きず、多層膜の損傷が見られなかった。開発を進めてきた改良型の多層膜ミラーが良好な性能を発揮していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の前身となる開発研究では、軟X線のコンプトン散乱に必要なビームライン設備を一通り整備できたものの、低膨張ガラス製の薄い基板を使った多層膜ミラーがX線照射により急激な温度上昇を起こすとともに、多層膜の損傷による反射率低下が見られた。また、反射面の研磨も機械研磨ではなかったため、十分な面粗さが出ていなかった。本研究では、これらの経験を踏まえて改良した新しい多層膜ミラーおよびその設置方法を開発し、性能試験をニュースバルの実験施設等で順調に進めることができた。また、試験の結果として新ミラーの良好な反射性能および大強度X線に対する耐性を確認することができた。今後行うコンプトン散乱試験に向けて十分な基礎開発が進んでおり、本研究は概ね計画通りに進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
開発した多層膜ミラーを使ってニュースバルBL07の短尺アンジュレータから放射される92eVの軟X線を反射させ、元の1GeV電子蓄積リング中でコンプトン散乱を起こす実験を進める。この軟X線コンプトン散乱により、最大で0.58GeVまでエネルギー増幅されたガンマ線の生成を確認する。コンプトン散乱で生成されたガンマ線ビームのエネルギー分布と強度、プロファイルを既設検出器系で測定し、事前評価と比較する。軟X線コンプトン散乱の実証実験が完了した後は多層膜ミラーの開発を更に進め、より広帯域の軟X線を反射できることを目標とする。これにより反射軟X線のビーム強度を上げて、コンプトン散乱によるガンマ線ビームを大強度化すると同時に次世代ハドロン光生成実験に向けて実用化するための道筋を作る。
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次年度使用額が生じた理由 |
反射する軟X線の波長帯域を広げた新型多層膜ミラー(非等周期成膜)を並行して製作する予定であったが、その製作前にシリコン基板製の改良型多層膜ミラー(等周期成膜)の性能を十分に見極める必要があった上に、改良型ミラーの反射率測定を行うビームラインの都合で計画が半年ほど遅れたため、広帯域ミラーの製作開始を次年度へ持ち越すこととした。改良型ミラーの性能試験は若干の遅れがあるものの順調に進められたため、今後は多層膜ミラーの実用最適化開発を軌道に乗せられる予定である。
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