研究課題/領域番号 |
22K18715
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
民井 淳 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (20302804)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | レーザープラズマ / ガンマ線計測 / 原子核乾板 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、超高強度レーザーが固体標的に照射された際に発生するレーザープラズマからの放射ガンマ線を直接計測する技術を開発することにある。この技術により、レーザープラズマの動的メカニズムの理解や、プラズマ内で生じる原子核反応の証拠を検出することを将来的に目指す。放射ガンマ線の計測は、レーザー粒子加速の解析においても重要な診断手法であり、また、核反応の定量的測定につながる可能性がある。 本年度は既取得のデータ解析を進めた。関西光科学研究所のJ-KAREN-Pレーザーを用いて、標的から放射される数十メガ電子ボルト領域のガンマ線を、原子核乾板(エマルション)を使用して計測するテスト実験データで、集光強度が10の21乗ワット毎平方センチメートル、パルス幅が30フェムト秒(fs)の高輝度パルスレーザーを、厚さ5マイクロメートル(μm)の銀薄膜標的に1ショット照射し、30層に重ねられたエマルション検出器を設置してガンマ線を計測した。解析の結果、ガンマ線によって引き起こされた電子・陽電子対生成の飛跡が4例確認され、ガンマ線の入射方向およびエネルギーが推定された。シミュレーションを用いて、測定されたガンマ線が標的から直接放出されたものか、電子線が真空槽の内壁に衝突して生成されたものかを判別する作業を進行中であるが、今回の測定結果からは、真空槽内で生成されたガンマ線である可能性が高いと考えられる。この成果はOPTO2020会議で発表され、現在は論文の作成が進められています。 次年度に向けて、エマルションを真空槽内に設置し、観測条件をより明確にする計画を進行している。ガンマ線を直接観測することが可能になれば、レーザープラズマからの放射ガンマ線の世界初の直接測定という重要な成果を示す可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関西光科学研究所にて新たな計測実験を令和4年度中に実施する予定であったが、ビームタイムの取得に関する課題により年度内の実施が困難となった。現在、引き続き令和5年度に向けて実施する計画を進行中であり、検出器・真空槽等の準備を進めている。 一方で、既に取得しているデータの解析作業を並行して進めており、その成果が見えてきた。この解析結果については、令和5年4月に開催予定のOPIC2023内のHEDS2023会議で発表するである。 さらに、開発した実験手法の技術的な計画と、現在までに達成している測定感度についてまとめた内容の論文を執筆中である。これらの成果は、今後の研究推進に大いに役立つと考えてる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、4年度に計画されていたレーザープラズマからのガンマ線再測定を、関西光科学研究所のJ-KAREN-Pレーザーを利用して遂行する予定である。先年度に進行したデータ解析の成果から、原子核乾板(エマルション)検出器を使用したガンマ線の測定感度が確認できており、標的からの放出が見込まれるガンマ線フラックスの計測については、十分な感度が得られると考えられる。新たな測定の重要なポイントは、バックグラウンド事象を可能な限り低減することである。 この目的のため、原子核乾板を微少な気圧内に設置することで、標的真空層からの隔壁がほぼ不要(薄膜による隔壁)となるよう設計する。これにより、標的から放出された電子線による制動放射ガンマ線事象を大幅に低減し、さらに、標的からの道筋に電磁石を配置して電子線を偏向させ、原子核乾板に直接入射する事象を排除する。装置の設計を継続して行い、製作・利用を予定している。 標的から放射されたガンマ線を直接観測できれば、レーザープラズマからの放射ガンマ線の世界初の直接測定となる。このプロジェクトと並行して、既に取得したデータの結果をまとめ、測定手法及び検出感度についての論文を学術誌に投稿する予定である。エマルションの解析手法については、現時点では名古屋大学で開発されたGeV領域の宇宙線ガンマ線の解析技術を基盤としている。研究の目標は、ガンマ線計測の最適化と解析手法の改善である。主要な焦点は、より低エネルギーのガンマ線(10-40 MeV領域)の電子陽電子対生成イベントを抽出可能にすること、そしてコンプトン散乱の電子飛跡検出を利用して、より低エネルギーで高感度(高統計)なガンマ線計測を可能にする開発を行うことである。これらの開発活動は、本研究課題を主軸に活動を展開している大学院生を中心に進行する。得られた成果については、投稿論文の準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算使用計画のうち大きな部分を占める関西光科学研究所での測定実験計画が、ビームタイム取得上の理由により令和4年度に実施できなかったため。この実験計画は令和5年度に変更して実施する予定である。
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