研究課題/領域番号 |
22K18717
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山中 隆志 九州大学, 基幹教育院, 助教 (90632357)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ペロブスカイト半導体 / メチルアンモニウム臭化鉛 / セシウム臭化鉛 / ガンマ線検出器 |
研究実績の概要 |
今年度は購入済みの6 mm×6 mm×2 mm厚のメチルアンモニウム臭化鉛(MAPbBr3)単結晶を用いたガンマ線検出器の製作から開始した。結晶に片面に金、もう片面にはアルミニウム金属を蒸着することでショットキー接合型の素子を作成し、信号増幅・読み出しのための回路基板に実装することで結晶内を通過するガンマ線を検出するための装置が完成した。微小信号に対応した回路パラメータを選択することで、試験に用いるガンマ線が結晶内で反応して生じるパルス信号を増幅して検出可能なように調整を行い、基本的な装置開発を完了した。 製作した検出器にて可視光に対する応答が確認され、太陽電池素子として動作することは確認できた。一方、ガンマ線源を用いての信号の確認を試みたが有意な信号は得られず、ノイズ未満の信号しかガンマ線由来で発生していないと結論付けた。この原因として結晶表面に蒸着した金属の内、アルミニウムが結晶表面でマイグレーションを起こし、正常な蒸着膜を形成できておらず、ショットキー接合によるノイズ抑制が働いていない可能性が疑われたため、2個目の素子では片面をガリウムに置き換えて製作した。想定通りノイズの低下が確認できたものの、ガンマ線由来の有意な信号は確認できなかった。 観測されているノイズは結晶素子に印可するバイアス電圧に相関して増えることが確認され、電気回路ではなく結晶本体から生じていると考えられたことから結晶を2 mm×2 mm×1 mm程度の小片に分割して素子を再製作し、ガンマ線信号の検出を試みた。ノイズのさらなら低下を確認でき、計算上はガンマ線エネルギーから推定される信号量以下に抑えられたが有意な信号の確認には至らなかった。 同様の試験を追加で入手したペロブスカイト型結晶であるセシウム臭化鉛(CsPbBr3)でも行ったが、こちらでも有意なガンマ線信号は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に示す通り、市販のMAPbBrおよびやCsPbBr3ペロブスカイト結晶を用いて最初のガンマ線検出器の製作を行い、信号増幅・読み出し回路基板の製作技術は一旦確立した。しかし、当初の予想に反し、製作したガンマ線検出器では線源由来のガンマ線の有意な信号が得られなかった。結晶の格子欠陥が多い場合、結晶内で生じた電荷輸送が妨げられ信号量の低下が起こることから、使用した結晶の質が低い可能性が考えられる。 当初の計画では当該年度中には最初の試作ガンマ線検出器を完成させ、ガンマ線の検出効率やエネルギー測定分解能の評価などを行う予定であったが、これらの計画の変更が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
市販されているMAPbBr3やCsPbBr3のペロブスカイト結晶では高品質のものが得られないことから、新たに結晶を自分たちで生成する方針に変更した。結晶生成には時間と費用を要する一方で、目的に応じて品質を追求することが可能となる。特にMAPbBr3は材料を溶媒中に溶かして析出させることで比較的簡単に結晶を生成できることから、まずはMAPbBr3結晶生成に着手する。 高品質のペロブスカイト結晶生成自体が開発途上の技術であるため、本研究課題としても既製の結晶を用いての放射線検出器開発だけでなく、結晶生成も含めた開発に広げて進める方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では初年度には市販のペロブスカイト結晶を用いたガンマ線検出器の試作機の性能評価を終え、さらにそれを踏まえた改良機を順次製作する予定であった。しかし、市販のペロブスカイト結晶では高品質のものが得られないことが判明したため、計画を変更し自身で結晶生成を行うこととし、そのための設備の準備が必要となった。必要な設備の検討に時間を要したため、その準備費用は次年度使用が必要となった。
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