研究課題/領域番号 |
22K18735
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
寺田 健太郎 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (20263668)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 小惑星リュウグウ / C型小惑星 / 炭素質隕石 / 同位体分析 / U-Pb年代 / SIMS / 局所分析 / はやぶさ2 |
研究実績の概要 |
地球近傍小惑星リュウグウやベヌーのラブルパイル構造(岩塊の集積構造)の観測から、 かつて大型のC型小惑星母天体の破砕が起こったことは明白である。しかし、そのカウンターパートである地球に飛来する炭素質隕石では、Ar-Arショック年代分析の技術的な難しさから衝撃変成の年代学的な議論は殆どなされていない。本研究は、結晶化年代と衝撃変成年代の同時決定の実績のある局所U-Pb年代分析法を用い、炭質コンドライト隕石のU-Pbシステマティックスを系統的に調べ、母天体の衝突破壊の年代学的な痕跡を調べるのが目的である。 2022年度は、東京大学大気海洋研究所のNanoSIMSを用い、小惑星リュウグウ微粒子、CI隕石に分類されるOrguei、Yamato-980115、Yamato-86029のU-Pb年代分析を行なった。リュウグウ微粒子とOrgueiのU-Pbシステマティックスは約46億年の古いコンコーディアを示し、先行研究で示されたMn-Cr系の結果(水質変成年代; Yokoyama et al. 2022)と一致した。一方、Yamato-980115、Yamato-86029はディスコーディアの特徴を示した。これら4試料が同一天体であると仮定すると、ディスコーディアの特徴から得られる変成年代は10億年以下を示した。このような若い年代のU-Pb系を乱した熱源として、短寿命核種26Alの放射壊変熱は考えられないことから、天体衝突と考えるのが妥当である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CI隕石の物理パラメーターを考慮したC型小惑星母天体の破砕シミュレーション(Nakamura et al. 2022。寺田も共著)によると、母天体のインパクト直下では700°Cまで温度が上がるものの、体積的に多くの領域では、90°Cまでしか温度が上がらないことが明らかになった。U-Pb系の閉鎖温度は500-600°Cであり、衝突でこの温度以上にならなければU-Pb系は乱されない(つまり、衝突年代を導出することができない)。このような条件で、小惑星リュウグウ、およびCIタイプ隕石から衝突変成の痕跡を見つけた意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、小惑星リュウグウ、CIタイプ隕石から得られた衝突年代の成果を論文にまとめる。またHeated CM隕石を入手し、U-Pb年代分析に適切な鉱物を探すことに注力する。 これまで、U-Pb年代分析は東京大学大気海洋研究のNanoSIMSを用いて行なってきたが、大阪大学でも同分析が行えるよう、当たらな装置の立ち上げを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
東京大学大気海洋研究所のNanoSIMSを使ってCI隕石の分析を行ない、U-Pb系から変成年代の痕跡を得られることが示せた。一方で、有意な変成年代値を得るには、1試料1週間の分析では統計的に不十分であることもわかった。小惑星の大規模破砕について系統的な議論を行うには、大量の隕石試料の分析が必須であるが、他機関の装置を借りるには限界がある。そこで、同分析用に専有できる装置を大阪大学で立ち上げるべき、という考えに至った。高感度のイオンマイクロプローブを設置する実験室の改修工事が2022年度に完了しなかったため、2023年度に繰り越すことにした。
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