本研究の目的は、地球磁場によって堆積物中で磁性細菌が配向した痕跡を観測可能かを検証することである。2年間の研究の結果、天然試料での検出は現在のプロトコルでは困難であることが分かった。昨年度の結果より、培養した磁性細菌を、方位をコントロールしつつマイクロ波吸収を抑えて固定する処理が複雑であることが分かったので、今年度は磁性細菌マグネトソーム由来の磁鉄鉱を多量に含む天然の堆積物を用いて再堆積試験を行った。バルクの強磁性共鳴の結果によると、この試料中のスピンの約50%がマグネトソーム由来である。ヘルムホルツコイルシステムを作成し、任意の方向に0-200マイクロテスラの磁場を発生させられるようにした。再堆積させた試料について水を樹脂に置換し、直径2mmの円柱形に成型した。強磁性共鳴測定のために、試料方位を変えられるホルダーを作成した。 水平方向に最大の磁場(200マイクロテスラ)を印加して堆積した試料について、強磁性共鳴スペクトルと磁場方位との関係を測定したところ、10^-6程度の変動がみられた。数値計算との比較に基づくと、この変動の大きさは集中度パラメータ0.1程度に相当することになる。しかし、変動パターンは理論的な計算と一致しなかった。すなわち、ここで見られた異方性は何らかのノイズに起因するもので、これを改善しない限り集中度パラメータ0.1以下の異方性を検出することはできないことが分かった。天然試料の集中度パラメータは0.1程度であると考えられるため、ホルダーのバックグラウンドなどを継続的に改善する必要がある。
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