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2022 年度 実施状況報告書

器官形成における組織弾塑性の適応的な制御機構と内部構造ゆらぎの役割

研究課題

研究課題/領域番号 22K18749
研究機関金沢大学

研究代表者

奥田 覚  金沢大学, ナノ生命科学研究所, 准教授 (80707836)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2024-03-31
キーワード生体力学
研究実績の概要

本研究では、器官の形成過程は,ミクロな分子・細胞レベルの力発生により駆動される動的な変形過程であり,マクロな器官レベルにおいて頑強に制御されている.近年,器官発生の進行に応じて,器官を構成する組織の弾塑性が適応的に変化することが分かってきた.特に,この組織の弾塑性を介して,内部構造である細胞骨格や接着構造等のアクティブなゆらぎが,組織の形態形成を制御している可能性がある.そこで本研究では,器官形成にみられる分子・細胞レベルの内部構造ゆらぎが,マルチスケールな相互作用を介して,組織の弾塑性をどのように制御するのかを解明する.
これまでの研究により、細胞骨格から多細胞までを繋ぐマルチスケールな新規力学シミュレーション手法の開発に成功した。この基盤モデルでは、細胞表面の膜は質量を保存しない粘性流体膜として扱った。また、細胞の形態は三角形メッシュで離散化し、その動態は実効的な力学エネルギーと散逸関数で表現した。膜の運動により歪んだメッシュ構造は、改良した動的リメッシング手法により、動的に最適化した。提案した基盤モデルを検証するため、数値シミュレーションを行い、膜の流れが物理的に矛盾なく再現されること、リメッシング手法の影響が無視できることを示した。さらに、開発した基盤モデルの有用性を示すために、マランゴニ効果に類似した細胞運動の数値シミュレーションを実施した。結果として得られた細胞運動は既存の解析解と一致しており、開発した基盤モデルが膜のターンオーバーを伴う細胞の長時間動態を定量的に再現できることが示された。本基盤モデルは、細胞膜動態の単純な記述に基づき、様々な細胞の形や動きを解析するための有用な基盤を提供するものである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

細胞骨格から多細胞までを繋ぐマルチスケールな新規力学シミュレーション手法の開発に成功した。

今後の研究の推進方策

(1)開発したマルチスケールな力学シミュレーション手法を用いて、細胞膜・細胞骨格・細胞間接着の三次元動態に関する連成解析を実施する.
(2)器官形成における組織の弾塑性と内部構造ゆらぎとの関係を知るため,多能性幹細胞から誘導した網膜オルガノイドを用いて,材料力学的な摂動下におけるライブイメージングを行う.特に,内部構造である細胞骨格や接着構造の局在,細胞の形態や配置を観察し,その特徴量を抽出する.この幹細胞オルガノイド実験系により,本来は胚組織内部で生じる器官形成の観察と摂動を可能にし,組織の弾塑性と内部構造ゆらぎの定量化を実現する.
(3)開発した力学シミュレーション手法,および,網膜オルガノイドを用いた力学的な摂動実験を組み合わせ,弾塑性のマルチスケールな調節機構を同定する.まず,ライブイメージングにより得られた実データに基づいて,網膜形成における多細胞動態の定量的な力学シミュレーションを行い,どのような調節機構がマクロな組織の形成過程を頑強に実現し得るのかを予測する.さらに,網膜オルガノイドを用いた力学的な摂動実験により,その予測の妥当性を検証する.

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件)

  • [雑誌論文] Long-term adherent cell dynamics emerging from energetic and frictional interactions at the interface2023

    • 著者名/発表者名
      Okuda Satoru、Hiraiwa Tetsuya
    • 雑誌名

      Physical Review E

      巻: 107 ページ: -

    • DOI

      10.1103/PhysRevE.107.034406

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Continuum modeling of non-conservative fluid membrane for simulating long-term cell dynamics2022

    • 著者名/発表者名
      Okuda Satoru、Sato Katsuhiko、Hiraiwa Tetsuya
    • 雑誌名

      The European Physical Journal E

      巻: 45 ページ: 0

    • DOI

      10.1140/epje/s10189-022-00223-0

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Polarized interfacial tension induces collective migration of cells, as a cluster, in a 3D tissue2022

    • 著者名/発表者名
      Okuda Satoru、Sato Katsuhiko
    • 雑誌名

      Biophysical Journal

      巻: 121 ページ: 1856~1867

    • DOI

      10.1016/j.bpj.2022.04.018

    • 査読あり
  • [学会発表] Elastic-Plastic Transition in the Mechanical Response of Ep-ithelium2023

    • 著者名/発表者名
      Aki Teranishi, Satoru Okuda
    • 学会等名
      RIKEN BDR Symposium 2023 Transitions in Biological Systems
    • 国際学会
  • [学会発表] 組織切片のAFM計測による生きた胚内部の弾性率マッピング2022

    • 著者名/発表者名
      詩丘伊月, 奥田覚
    • 学会等名
      第33回 バイオフロンティア講演会
  • [学会発表] 多細胞ダイナミクスの汎用的計算手法: 3Dバーテックスモデルと非保存流体膜モデル2022

    • 著者名/発表者名
      奥田覚
    • 学会等名
      ソフトバイオ研究会2022
    • 招待講演
  • [学会発表] Mechanical plasticity of epithelium for progressing morphogenesis2022

    • 著者名/発表者名
      Satoru Okuda
    • 学会等名
      New Frontiers in Developmental Biology; Celebrating the Diversity of Life
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Computational simulations of cell and tissue dynamics2022

    • 著者名/発表者名
      Satoru Okuda
    • 学会等名
      Computational Biophysics of Atomic Force Microscopy A Lecture-based Workshop
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 上皮組織の適応的な曲げ特性とその分子制御機構の解明2022

    • 著者名/発表者名
      寺西亜生, 奥田覚
    • 学会等名
      日本機械学会 2022年度年次大会
  • [学会発表] 3Dバーテックスモデルによる上皮層形成の力学機構の解明2022

    • 著者名/発表者名
      深町崇耶, 奥田覚
    • 学会等名
      日本機械学会 2022年度年次大会
  • [学会発表] 界面張力の不均一性・ゆらぎ・非対称性が引き起こす多細胞の集団運動2022

    • 著者名/発表者名
      奥田覚
    • 学会等名
      ゆらぎ界面研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] Collective migration of cells as a sheet and cluster in 3D space2022

    • 著者名/発表者名
      Satoru Okuda
    • 学会等名
      The 9th World Congress of Biomechanics
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 極性化した界面張力が引き起こす多細胞のクラスター運動の力学機構2022

    • 著者名/発表者名
      奥田覚
    • 学会等名
      日本機械学会 第34回バイオエンジニアリング講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] Mechanics of Epithelial Stratification:Numerical Simulations Using a 3D Vertex Model2022

    • 著者名/発表者名
      Shuya Fukamachi, Satoru Okuda
    • 学会等名
      The 55th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists
    • 招待講演

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公開日: 2023-12-25  

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