研究課題/領域番号 |
22K18751
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村島 基之 東北大学, 工学研究科, 准教授 (70779389)
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研究分担者 |
鷲津 仁志 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 教授 (00394883)
梅原 徳次 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (70203586)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 誘電体バリア放電 / 低摩擦 / DLC |
研究実績の概要 |
本研究は,摩擦潤滑剤は外部から供給し長時間効果が持続する必要がある,という従来の機械工学の概念を覆し,潤滑剤を摩擦面においてその場で生成し供給するという革命的な潤滑技術の開発に挑戦する.研究代表者は昨年度の独自実験において,誘電バリア放電の摩擦面への直接照射により,表面に40 nm程度の軟質有機物層と液状物質が同時に生成され,それらが超低摩擦を示す驚きの結果を発見した.研究代表者はこの実験結果から,摩擦面において潤滑物質をその場で生成そして供給するという革命的な潤滑物質供給プロセスを発想した.さらにこの供給手法は,化学的安定性に劣る生分解性潤滑剤を機械しゅう動面で利用可能とする革新的技術であると気づきを得た.本年度の研究では,Diamond-like Carbon(DLC)膜への誘電体バリア放電の放電条件を制御することで,それが摩擦係数にどのような影響を与えるかを明らかにした.具体的には,摩擦部および誘電体バリア放電周囲の環境を湿潤空気,湿潤窒素,湿潤酸素及び乾燥大気条件として試験を実施した.その結果,湿潤空気でのみ低摩擦が実現されることが明らかとなった.従来の研究では,乾燥ガス条件では液状物質が生成されず低摩擦条件とならないことが明らかにされていたが,本実験によりガス種の違いが摩擦係数に大きな影響を与えることが分かり,誘電体バリア放電により生成される液状物質の種類が重要であることが示唆された.また,誘電体バリア放電のインターバル制御を実施することにより低摩擦を持続的に維持できることを当初の想定を超えて明らかにすることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では主に,誘電体バリア放電の条件を変更することによる摩擦係数への影響を明らかにした.摩擦部および誘電体バリア放電周囲の環境を湿潤空気,湿潤窒素,湿潤酸素及び乾燥大気条件として試験を実施した.その結果,湿潤空気でのみ低摩擦が実現されることが明らかとなった.従来の研究では,乾燥ガス条件では液状物質が生成されず低摩擦条件とならないことが明らかにされていたが,本実験によりガス種の違いが摩擦係数に大きな影響を与えることが分かり,誘電体バリア放電により生成される液状物質の種類が重要であることが示唆された.さらに,誘電体バリア放電の発生周期を変更した場合に摩擦係数の推移がどのように変わるかを実験により明らかにした.従来実験では誘電体バリア放電を15秒連続して照射しており,この場合には,摩擦係数が0.008という超低摩擦を示すことが明らかになっている.一方で,この超低摩擦は照射直後の数秒しか持続せず,誘電体バリア放電を照射し続けているにも関わらず摩擦係数は上昇してしまうことが分かっていた.そこで,本研究では,1秒の誘電体バリア放電照射→1秒の照射停止というインターバルサイクルを繰り返すことが摩擦係数の推移にどのような影響を与えるかを実験的に明らかにした.その結果,インターバル制御の場合には,その間低摩擦が持続することが明らかとなり,従来の連続照射よりも優れた摩擦制御手法であることが当初予定を超えて明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,摩擦潤滑剤は外部から供給し長時間効果が持続する必要がある,という従来の機械工学の概念を覆し,潤滑剤を摩擦面においてその場で生成し供給するという革命的な潤滑技術の開発に挑戦するものである.今年度の研究では,摩擦中の雰囲気ガス条件や誘電体バリア放電のインターバル照射が低摩擦に重要であることが明らかとなった.これらの実験結果の違いは,誘電体バリア放電によるガスや固体表面を形成する分子のプラズマ化の違いに起因することが各比較実験から示唆されている.このように,低摩擦が実現する条件と実現しない条件が明らかになったことで,今後はそれらの表面を比較することで,誘電体バリア放電により生成された液体がどのようなメカニズムにより超低摩擦を導くのかを明らかにする.具体的には,低摩擦を示す条件および示さない条件において生成された液体を採取し,LC/MSやGC/MS分析を実施する.これにより,まずはそれぞれの液体にどのような物質が含まれているかを明らかにする.さらに,表面のラマン分光分析,表面エネルギー測定,XPS測定などを通じて,重要と考えられる潤滑分子がどのように表面に吸着するかを定量的に推定することで,超低摩擦メカニズムの解明に挑戦する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,異なる摩擦係数が得られる放電条件の選定に注力し,分析・シミュレーションをを実験結果に基づき今後集中的に実施することになったため.
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