研究課題/領域番号 |
22K18754
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澄川 貴志 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80403989)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 転位構造 / 金属 / 可逆塑性 / 繰り返し負荷 |
研究実績の概要 |
R4年度の研究実績は、以下のように纏めることができる。繰り返し変形中のマイクロサイズの材料中に形成される疲労転位構造を数値計算することを目的として、疲労現象の代表的な反応拡散系であるWalgreaf-Aifantis(WA)モデルに着目することとしたが、そのモデルに実現象との矛盾点があることを指摘し、改良を行った。一次元解析モデルを用いて検証を行った後、二次元解析モデルに拡張して、物理的解釈を考慮に入れながら拡散定数の異方性を調整することで、マクロ材の特徴的な疲労転位構造であるvein、channelおよびladder-like structure等の再現に成功した。さらに、材料の自由表面における境界条件を検討し、マイクロ材料中の疲労転位構造のシミュレーションに成功した。実験では、ニッケル単結晶を用意し、単一すべり方位を有するマイクロサイズの試験片を作製した。試験片は、寸法を異なるものを用意し、更にその内部の転位が繰り返し数の増加によってどのような変化を起こすかを特定するために、複数の試験片を用意した。この複数の試験片に対して繰り返し数の異なる疲労試験を実施し、薄片化を行って内部観察することで、転位構造の発展の様子を明らかにした。試験片表面から約1μmの領域では、表面からの影響を強く受け、マクロ材で形成されるveinが形成されないことを明らかにした。さらに、転位密度が低い領域では、すべり方向と平行な転位線とバーガースベクトルを有するらせん転位が多数存在することを確認した。このらせん転位は、「可逆的な塑性変形」を実現するために重要な要素であり、申請当初に予測していたものと同じ結果となった。寸法の異なるマイクロ試験片においては、同じ応力振幅であっても寸法の小さい試験片の方がより巨大な塑性ひずみ振幅を生じていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R4年度の研究計画は、1. 繰り返し変形試験を受けたマイクロ金属内に生じる疲労転位構造の詳細の解明、および、2. 材料内部の疲労転位構造を解析できるシミュレーション法の検討、としていた。実験においては、複数の試験片を用意して同じ応力振幅で異なる繰り返し数を与え、それぞれの試験片の内部観察を行うことで、転位構造が形成する様子を特定する予定としていたが、試験片間で結果のばらつきが極めて大きくなった。この原因は、試験片を試験機にチャッキングする際、試験片ゲージ部に初期転位が導入されてしまうことが原因であることを突き止め、チャッキング方法に関する改良を行い、当初の計画を達成した。また、解析に採用したWAモデルは、疲労転位構造をシミュレーションする上でこれまで一般的に使用されてきたモデルであるが、その解析結果に実験結果との齟齬があり、更にそのモデル式にも不備があることを発見した。このため、既存のモデル式に対して適切な改良を行うことで、実現象を良く再現するモデルを構築することができた。このように、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って計画を実施する。1.マイクロ試験片に対して条件を変えた複数の疲労試験を前年度に引き続き実施する。とくに、現状では繰り返し数の増加とともに材料内部では疲労転位構造が形成されるが、それにともない表面での形状も変化し、この形状変化に伴う応力集中が破壊原因となる可能性がある。ある程度の繰り返し数によって疲労転位構造が形成された後、加工によって試験片表面を再度平坦化し、その後繰り返し数を与えた際の挙動を明らかにする。2.実験結果および解析結果から、「可逆的な塑性変形」を実現するための転位構造について検討を行う。R4年度に得られた実験結果および解析結果によって、現時点で想定している条件下での実験を試し、その結果に基づき、適切な実験検証を行う。最終的に、その塑性変形能について定量的な評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
R4年度は、力学設計のための数値解析に使用するスーパーマルチチャンネル計算サーバーを導入する予定であったが、解析手法を検討した結果、反応拡散理論を基礎とした解析を実施することが適切であると判明した。この解析は現有の解析装置を複数用いることで実施が可能であった。一方、R4年度の成果から、次年度には異なる条件の実験情報を得るために、多くの繰り返し負荷試験を実施する必要性が判明した。この際、マイクロ試験片を把持するための特注チップ(消耗品)を試験片本数分購入しなくてはならなくなった。本研究課題の達成のために必須である実験の成果を得ることを優先し、スーパーマルチチャンネル計算サーバーに充てる予算をR5年度に使用することとした。
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