金属材料の疲労破壊を抑制する主な手段として,疲労強度の向上と既存のき裂に対する補修の二つがある.疲労強度を向上させる技術として浸炭や窒化,高周波焼入,ショットピーニングなどが挙げられる.一方,既存のき裂に対する補修技術として,ストップホール法や溶接や熱間等方圧加圧法などがあるが,き裂に対する汎用性の高い補修技術は確立されていない.そこで,高密度電流の印加によりき裂を治癒させる新たな技術の研究が行われている.本研究では鉄鋼材料に疲労予き裂を導入し,高密度パルス電流を印加した場合の疲労き裂治癒メカニズムの解明を目的とした.通電前後の疲労き裂開口の変化を評価し,有限要素解析によりそのメカニズムを考察した.試験片に2 mmの疲労予き裂を導入し,試験片表面に設置した電極から高密度パルス電流を印可した.材料によってはき裂の途中で電流が迂回するケースも見られたが,電流集中が生じた位置でき裂が閉口した.マルチフィジクス有限要素法の解析結果より以下のプロセスによってき裂が治癒することが明らかとなった.(1)電流の印加によりき裂先端に高密度の電流場が形成される.(2)電流密度の高いクラック先端ではジュール発熱が最も高温になる.(3) クラック先端で熱膨張による圧縮応力が発生する.(4)高温では降伏応力が低下するためき裂先端に塑性領域が形成される.(5) 空冷によりき裂先端近傍に引張残留応力がき裂先端後方に圧縮残留応力が発生する.(6) 局所的な曲げ変形が生じき裂が閉じる.一方,き裂面間の抵抗が低くき裂先端に十分な電流集中が生じない場合にはき裂治癒の効果は小さいことも明らかとなった.
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