研究課題/領域番号 |
22K18762
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
松本 龍介 京都先端科学大学, 工学部, 准教授 (80363414)
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研究分担者 |
松永 久生 九州大学, 工学研究院, 教授 (80346816)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 水素脆化 / 疲労 / 破壊 / 環境変動 / 原子シミュレーション / 転位 |
研究実績の概要 |
本研究では,力学的作用による疲労現象ではなく,化学的作用による疲労現象という新しい領域を切り拓き,環境変動に曝される部材の高精度な強度信頼性予測に資することを目的とする.具体的な問題としては,水素の吸着・脱離によって繰り返し生じる転位運動や,転位の安定構造の変化と,材料損傷との関係を紐解く.研究代表者(松本)が主に実施する計算力学的なアプローチと,研究分担者(松永)が主に実施する実験力学的なアプローチにより研究を実施している.初年度は,研究の立ち上げと,翌年度以降に必要となる基礎データの収集を行った.計算力学的なアプローチでは,最初に水素トラップによる転位のエネルギー変化を明らかにする.鉄の原子モデル中に微小な転位ループを作成した後に,ボロノイ多面体解析を用いてフリーボリュームの大きいサイトを抽出することで,転位芯まわりの水素侵入サイトの候補を選定した.次に,それらの候補位置に水素を一つずつ導入し,水素トラップエネルギーの分布を評価した.ここでは,転位ループに対する評価を実施しているため,刃状転位かららせん転位に至る混合転位部分も含めて水素トラップエネルギーを明らかにすることができた.転位ループ内では,従来の知見通り,刃状転位部分が非常に多くの水素を吸着すること,また水素のトラップによって系が安定化することが確認できた.また,実験的なアプローチでは,一定のき裂開口変位を付与した試験片を水素濃度が変動する環境に曝すことで,き裂の加速度合いと環境変動との関係を明らかにする.これまでに,焼入れ後,焼戻し温度を変化させることで,3通りの強度レベルの素材(SCM440H)を準備し,規格(ASTM E1681)に準拠したボトルロード試験片を作成した.また,試験治具の製作や,上記試験片への予き裂の導入を行い,水素ガス環境を用いた試験の条件を決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,計算(主に研究代表者が実施)と実験(主に研究分担者が実施)で互いに有機的に協力しあうことで,化学的作用による疲労,特に水素環境の変動による格子欠陥(主に転位)への水素の吸着と脱離によって誘起されるき裂進展現象を明らかにすることを目指している.初年度は,計算と実験の両方において,研究の立ち上げと翌年度以降に必要となる基礎データの収集に専念した. 計算によるアプローチでは,転位ループまわりの水素のトラップサイトの位置と強さのマップを作成し,水素環境と水素トラップ数の関係を転位の成分ごとに評価するための基礎データを得ている.また,実験によるアプローチでは試験片を作成し,次年度早々に実施する水素ガス環境下実験の条件設定を行った. 以上のことは,おおむね計画通りであり,本研究は順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,(1)固溶水素濃度と転位芯の自己エネルギーの変化の定量化,(2)転位芯の自己エネルギーの変化に伴う転位運動の定量化,(3)環境変動による遅れ破壊の加速の定量化を行う.初年度には,転位ループまわりの水素トラップエネルギーの分布を明らかにしている.次年度は,このデータに対して,ジーベルツ則およびフェルミ・ディラックの分布関数を用いることで,異なる水素ガス圧力と温度における転位まわりの平衡水素濃度を,転位成分(刃状,らせん,混合)ごとに評価する.これによって,上記(1)の実現に大きく近づく.また,初年度に作成した3種類の強度の試験片に対して,き裂開口変位一定下で水素ガス圧力一定の環境に曝露する試験を行う.試験後の試験片に対して,破面出しを行い,き裂進展量などのデータを取得する.水素環境を変動させない場合での基礎データを取得した後に,水素環境を変動させる試験に移行していくことで,(3)の実現を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は研究の立ち上げを主としたため,計算機の導入を見送った.次年度はより本格的な計算が必要であることから計算機の導入,および,研究補助員(Research Assistant)への給与の支払いを予定している.
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