研究実績の概要 |
複雑流体(complex fluids)のレオロジーは,流体の変形や時間発展による物質の内部状態変化の影響を受けるため,流体内部の応力,ひずみ速度(ひずみ)分布と,物質の微視的構造や化学的性質を同時に把握する方法が必要である.「光干渉断層撮影法(OCT)」による流動・構造計測と「ラマン分光法」による物質分子計測を複合した高時間分解レオロジー計測システムの構築を進めた.測定対象は,豊富な研究例があるひも状ミセル水溶液とした. まず,水溶液のラマンスペクトル取得のための Collinear CARS 光学系の設計・評価を行った.サンプル測定により,ひも状ミセルの絡み合い構造に起因するスペクトル,水溶液の屈折率を同定し,位相整合条件を満たすCollinear CARS光学系を構築した.この光学系の基本的性質を調べたところ,目標のスペクトルを得るために,プローブ光の狭帯域化が必要とわかった.狭帯域化の方法論として,分散特性を精密に制御した光フィルターによるパルス整形を用いた新しいシングルパス狭帯域第2高調波発生(SHG)法を開発した.フィルターを10枚重ねたスタックに,パルス光を通す特性試験を行った結果,SHG帯域幅は1/6に圧縮され,波長変換効率はフィルターなしの場合に比べて18倍向上することが分かった. 次に,矩形流路内のμmオーダーの分解能を持つ流動計測を行うために,ドップラーOCT光学システムを構築した.システムの計測精度を評価したところ,測定位置(深度)は相対誤差0.40%と非常に高い計測精度を得た.一方速度算出では約10%の誤差が生じ,波長分散の影響が推察された.並行して,分担者(武藤)は,同じ流路に対して,PIV法による流速測定と複屈折計測による応力場推定の比較検討を行い,流路壁近傍の複屈折測定に改善の必要があることを示した.
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