研究課題/領域番号 |
22K18768
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
辻 義之 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (00252255)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 量子乱流 |
研究実績の概要 |
量子乱流場の可視化には、Heと同程度の密度を持つ微細な粒子が不可欠である。その候補として、Heエキシマからの発光を利用する。エキシマの生成と可視化画像を取得する方法を確立しているが、流動場の速度情報を取得するためには、粒子密度、発光強度を最適化する必要がある。それらを踏まえ、実験条件を整えて量子渦の発生に伴いエキシマを追随させた可視化をおこなう。量子渦のリコネクションは高速で起こるため、密度差の大きい個体水素は量子渦に追従できないことがわかった。また、空間のタングル構造は微細構造であるため、より小さな可視化粒子を用いる必要がある。エキシマを可視化粒子として利用することで、量子乱流場の詳細を解明することに挑戦した。 エキシマの生成に中性子、ガンマ線などの放射線を利用する試みは物性研究で古くから報告例があるが、発光スペクトルの計測にとどまっている。空間内のエキシマの分布を画像として計測したのは本研究が初めてである。大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、放射線をビーム形状として空間的に照射する。従って、エキシマは空間内に一様に発生し、高分解能カメラを用いることで量子渦の構造を可視化することができる。発光は微弱であるため、光電子増倍管による計測をおこなった。エキシマからの発光を可視化画像として取得するために、微弱な光をイメージ・インテンシファイにより増幅することで、空間に分散するエキシマを画像計測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大強度陽子加速器施設(J-PARC)において、 放射線(中性子、 ガンマ線)を低温ヘリウムに照射することでエキシマの生成をおこない、エキシマを長時間発光させるためのレーザー光学系の動作を確認できた。エキシマは特定の波長を吸収することでエネルギー準位を高め、低エネルギー準位に移行する際に発光する。そのサイクルは脱励起レーザーを連続的に照射することで可能となることを一連の実験で確認できた。中性子とガンマ線ではエキシマからの発光の様子が異なるため、両者を区別できる詳細な画像解析を進めている。エキシマからの発光は、局所的に集中して起こることが観測されている。この集中的な発光はエキシマクラスターと考えられる。放射線はパルス的に照射されるため、レーザーと撮像系との同期と時間遅れがエキシマ画像に与える影響を確認している。この時間遅れは画像計測と同時に光電子増倍管での計測も実施しており、クラスター発生時の光電子増倍管からの信号解析も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
大強度陽子加速器施設(J-PARC)における実験データを詳細に解析する。エキシマの空間分布と生成頻度を統計的に解析することで、放射線強度とレーザー励起の相関を調べる。エキシマの発生は、空間的に局在することが観測され、クラスターを形成していると考えられる。しかし、クラスターの規模と発生頻度は、従来報告されている文献値と異なるため、その原因について考察する。可視化とともに光電子増倍管での同時計測をおこなっているので、その信号からのエキシマ検出と可視化画像との比較から、空間内でのエキシマの発生とクラスターの生成について体系的に考察を進める。可視化画像と光電子増倍管からの信号を比較することで、中性子とガンマ線由来のエキシマ生成の分離ができるかを考察する。光電子増倍管からの信号は、計測装置内全体に及ぶ発光が反映されるため、レーザー照射領域との関係が明確になっていない。また、放射線の照射領域との関係も明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計測系の修理ならびに真空ポンプの不具合から実験の回数を減らしたことにより、次年度使用が生じた。計測器の修理を早急に完了するとともに、実験計測を実施する計画である。
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