研究課題/領域番号 |
22K18782
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
中原 佐 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (00756968)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | キネシン / 微小管 / 光熱効果 / MicroTAS / BioMEMS |
研究実績の概要 |
近年、生体分子モータのキネシン上で細胞骨格の微小管を移動させる運動系(微小管運動)を構築し、ナノスケールの輸送機構として応用する研究がおこなわれている。微小管運動における剥離現象は、これまで輸送を阻害するものと考えられてきたため、能動的に剥離させる方法は極めて少ない。しかし、剥離制御技術が確立できれば、輸送対象を特定の位置で選別できるツールとなるため、微小管運動の新たな制御技術になると考えられる。本研究では金薄膜への光照射によって生じる光熱効果を用いて、微小管運動の剥離制御技術を確立することが目的である。 2022年度においては、まず断熱材として機能するフォトレジストの膜厚を調整するとともに、製作したサンプルの光熱効果による温度上昇量をサーモグラフィカメラで計測した。その結果、フォトレジストの膜厚の増加に伴い、光熱効果による温度上昇量の増加を確認した。また、製作したサンプルの上に簡易流路を製作し、流路内に微小管運動を構築した後、光照射に対する剥離率の変化を評価した結果、時間経過に伴い微小管の剥離率が増加する傾向を確認した。さらに、光の照射時間が短い場合は、微小管を剥離させた領域へ別の微小管が再進入する様子を観察した。今後は、微小管運動における剥離要因として、キネシンの変性および流れ場の影響について詳細に調査するとともに、微小管運動の剥離制御技術の確立に向けて、時間分解能や空間分解能、操作性の評価に取り組む計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては、熱によるキネシンの変性(機能消失)の影響を調査するために、断熱性能の異なるサンプルを製作し、サンプル上での微小管運動の剥離率の変化を評価した。サンプルの製作においては、断熱材として機能するフォトレジストの膜厚をスピン塗布の回転数によって制御し、膜厚が約10~220μmの範囲で異なるサンプルを製作した。また、製作した金薄膜付きサンプルの光熱効果による温度上昇量をサーモグラフィカメラで計測した結果、膜厚の増加に伴い、温度上昇量も増加する傾向がみられ、最大約50℃の温度上昇を確認した。製作したサンプル上に簡易流路を製作し、微小管運動を構築した後に、光照射に対する微小管の剥離率を計測した結果、経過時間の増加に伴い、剥離する微小管も増加し、45秒で98%の微小管が剥離することを観察した。また、30秒間の光照射によって微小管を一度剥離させた後、光照射領域を継続して観察したところ、約33%の微小管が再進入する様子を確認した。以上より、サンプルの製作および光照射に対する温度上昇量に加えて、微小管の剥離率に関する基礎的知見が得られていることから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度においては、微小管運動における剥離要因の詳細を調査するとともに、微小管運動の剥離制御技術の確立に向けて、時間分解能や空間分解能、操作性の評価に取り組む計画である。剥離要因と考えられる熱によるキネシンの変性については、温度と経過時間、剥離領域への微小管の再進入の可否を統計的に処理することで、剥離現象に与える変性の影響を明らかにする計画である。また、別の剥離要因として、金薄膜表面と溶液の温度差によって生じる上昇流の影響が考えられる。本研究では、数値解析を用いて基板表面の流れ場を導出し、微小管への流れ場の影響について報告した従来研究と比較することで、流れ場が剥離現象へ与える影響を明らかにする計画である。剥離制御技術の確立については、微小管が剥離するまでにかかる時間、および遮光フィルターを用いて剥離させることができる最小分解能について評価する。また、所望の位置で微小管を剥離させる操作性を評価することで、新たな制御技術としての有用性を検証する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画において設備備品費として計上していた小型蒸着装置の価格が想定よりも少額であったため、次年度使用額が生じた。翌年度において当該助成金は物品費として使用する計画である。
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