本研究では、圧電基板として利用されるLiNbO3 (LN)やLiTaO3(LT)単結晶中に存在する結晶欠陥と吸収損失の関係を明らかにし、吸収減衰による損失改善を目指すことを目的としている。本年度は、昨年度構築した20GHzまで対応のベクトルネットワークアナライザと高周波計測対応のプローバーと組み合わせた高周波計測技術を用いて測定するためのサンプル作製を進めた。高周波用の弾性波RFフィルタは、高周波動作のために圧電基板を薄くする必要があり、破損しやすく研磨が難しくなるため、できるだけ高音速となる縦波超音波を用いた構成とする場合が多い。そこで、測定対象としては縦波励振用で利用される36Y-cut LN単結晶基板を選択した。通常のLN基板は、コングルエント組成であるため均一ではあるもの酸素欠陥などの結晶欠陥が内在すると考えられている。その欠陥を補償する可能性があるMgをドープしたMg:LNを比較対象として選択し、同じ方位の36Y-cut Mg:LN基板を準備した。これらサンプル中を伝搬する縦波音波の伝搬減衰を計測するために、サンプル基板上にAu電極を介して励振用圧電基板を金属接合し、さらにその接合圧電基板を厚さ1 μm程度まで極薄に研磨して、高周波励振ができるようにした。研磨後の上部にAu電極を作製して超音波を励振し、サンプル中を伝搬する縦波音波の音速、伝搬減衰の周波数依存性を測定した。Mgをドープすることで縦波音速は112 m/s上昇するが、伝搬減衰は約5%程度低下する傾向が観測された。また、光学特性として透過率、吸収係数測定も行ったところ、320 nm近傍の吸収係数の立ち上がりが、MgドープのLNの方が短波長側へシフトした。これらのことから、高周波での伝搬減衰をより小さくするためにMgをドープすることが有効であることが示唆される結果を得た。
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