本年度は、前年度に開発したCO2-VUV法を用いて、プラズマ処理と同程度の高濃度でOラジカルをポリプロピレン(PP)表面に照射し、その表面処理能力を測定する実験を行った。従来のO2-VUV法よりも数10倍高濃度のO原子を照射することで、現実のプラズマ処理に近い条件下で測定を行うことができた。その結果、PP表面の酸化反応速度はO原子密度が増えると増加するが、1.5ppm付近から飽和することが分かった。これをO原子の表面物理吸着と脱着の平衡によるものと考察した。また、O原子をさらに照射すると水接触角が増加する、従来の表面処理と逆方向の反応も生じることを初めて示した。O密度とフラックスを変えた実験から、正方向の反応は反応律速、逆方向の反応は供給律速であることを明らかにした。 ヘリウムプラズマジェットを用いたPP処理とCO2-VUV法のPP処理結果を比較し、プラズマではO密度が高いため、過剰に逆方向の反応が生じる結果、見かけの酸化反応がそれほど顕著に進まないことを示した。プラズマによるポリマー表面処理の原理解明に向けた表面反応計測はほとんど行われたことがないが、本研究で開発したVUV法がこの原理解明に大きく貢献できる可能性を示した。 活性種によるPP表面反応シミュレーションモデルの研究も進めた。VUV法による計測結果に加え、量子化学計算や分子動力学計算で活性種の表面反応係数や物理吸着の様子を計算で求めた。また。XPS計測による各官能基密度の処理時間依存性と本研究で構築したシミュレーションの結果を比較し、ある程度の一致が得られそうな結果が得られた。
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