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2023 年度 実施状況報告書

バーティカル・グラフェンの創製とフレキシブル薄膜電池への応用

研究課題

研究課題/領域番号 22K18802
研究機関筑波大学

研究代表者

都甲 薫  筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30611280)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2025-03-31
キーワード二次電池
研究実績の概要

本研究は、軽くて柔らかい次世代型二次電池「フレキシブル全固体薄膜電池」を提案し、実現のボトルネックとなる「負極」に関する革新構造の開発と新学理の構築を目的とする。グラファイトは二次電池の負極として豊富な実績をもつが、合成に必要な温度が高い。研究代表者は、炭素と金属の「層交換現象」を世界に先駆けて発見するとともに、プラスチック上に従来最高品質のグラファイト膜(多層グラフェン)を直接合成し、負極動作を初めて実証した。一方で、多層グラフェンが「基板に平行な膜」であることによる特有の課題が顕在化した。そこで本研究では、前人未到の「バーティカル・グラフェン構造」を創出する。Liイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトを飛躍的に増大させることで、負極性能を劇的に向上することを目指す。
昨年度において、コインセル用下地金属箔の材料をTaとした場合、バーティカル・グラフェン構造が自己組織的に層交換合成されることを発見した。当初計画の微細加工プロセスを駆使した形成法と比して非常に簡便であり、大きなアドバンテージがある。そこで今年度においては、本現象のメカニズム解明と制御に向けて研究を行った。その結果、ガラス基板上に製膜したTa薄膜上においてもバーティカル・グラフェン構造が形成されるなど、多層グラフェンの配向性は層交換における下地材料種に強く依存することが判明した。すなわち、バーティカル・グラフェンの発生には、下地材料種の選択が鍵であることが明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、軽くて柔らかい次世代型二次電池「フレキシブル全固体薄膜電池」の実現に向け、Liイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトが電解質側に面した「バーティカル・グラフェン構造」をもつ炭素負極を開発することを目的としている。本年度は、昨年度において発見されたTa箔上におけるバーティカル・グラフェン構造の形成について知見を深めるべく、(1)多層グラフェン縦型配向のメカニズム解明、および(2)バーティカル・グラフェン構造の膜厚依存性調査を遂行した。
(1) 多層グラフェン縦型配向のメカニズム解明
コインセル用電極をTa箔とすることでバーティカル・グラフェン構造が得られたが、その原因として、グラフェン/下地金属界面エネルギーの変化、金属触媒(Ni)の状態変化、基板凹凸の変化などが挙げられる。これまでガラス基板やMo箔上においては水平方向に配向した多層グラフェンが得られてきた。これらの基板上にTa薄膜を成膜した上で層交換を試行した結果、X線回折法からバーティカル・グラフェン構造の形成が確認された。これは多層グラフェン配向性が、基板の凹凸ではなく下地材料との界面エネルギーまたはNiの状態変化の影響を受けることを示唆している。今後、Niの結晶性を詳細評価することにより、配向性制御の条件を特定していく。
(2) バーティカル・グラフェン構造の膜厚依存性調査
電池負極として十分な負極特性を得るためには、厚い炭素膜を合成する必要がある。一方、層交換はSiにおいてよく研究されてきたが、膜厚がSi薄膜の配向性に強い影響を与えることが分かっている。そこで今回、Ta箔上において炭素の厚みを変調した結果、いずれの膜厚においてもバーティカル・グラフェン構造の形成が示唆された。

今後の研究の推進方策

これまで、金属触媒を用いて合成したグラフェンは基板と平行方向に配向することが常識であった。しかし、層交換を用いた場合、下地金属種の選択によって配向性が変化し、バーティカル・グラフェン構造が容易に得られることが判明した。最終年度においては本現象を深化するとともに、デバイス応用を検討する。具体的には、(1)多層グラフェン配向制御の指針構築、および(2)バーティカル・グラフェン構造のリチウムイオン電池負極特性を研究する。
(1) 多層グラフェン配向制御の指針構築
下地金属種をTaとすることにより、多層グラフェンの膜厚によらず、縦型配向制御が可能となることが見出されてきた。縦型配向の起源を解明するため、様々な金属薄膜を下地層として成膜するとともに、層交換の金属触媒の種類(Ni、Co、Fe、Pt等)や成膜条件を変調し、これらが多層グラフェンの配向性に与える影響を網羅的に調査する。これらの結果を基に、多層グラフェン配向制御の指針を構築する。
(2) バーティカル・グラフェン構造のリチウムイオン電池負極特性
バーティカル・グラフェン構造の多層グラフェンにおいては、従来の基板水平方向に配向した多層グラフェンと比して、Liイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトが飛躍的に増大することが期待される。これら各構造についてリチウムイオン電池負極を試作し、その充放電特性や電流レート特性を比較することによって、多層グラフェンの配向性が負極特性に与える影響を明らかにする。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2024 2023

すべて 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [学会発表] 多層グラフェンの低温層交換合成と二次電池負極特性2024

    • 著者名/発表者名
      伊藤 玲音, 野沢 公暉, 末益 崇, 都甲 薫
    • 学会等名
      電気化学会第91回大会
  • [学会発表] Ge薄膜のリチウムイオン二次電池負極特性における異種元素添加効果2024

    • 著者名/発表者名
      野沢 公暉, 末益 崇, 都甲 薫
    • 学会等名
      電気化学会第91回大会
  • [学会発表] Si薄膜のリチウムイオン電池負極特性における界面層挿入効果2024

    • 著者名/発表者名
      江藤 葉, 野沢 公暉, 伊藤 玲音, 末益 崇, 都甲 薫
    • 学会等名
      電気化学会第91回大会
  • [学会発表] High-quality Multilayer Graphene Formed by Layer Exchange with Alloy Catalysts2023

    • 著者名/発表者名
      R. Ito, T. Suemasu, and K. Toko
    • 学会等名
      2023 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] 層交換による多層グラフェン二次電池負極構造の自己組織的低温形成2023

    • 著者名/発表者名
      伊藤 玲音, 末益 崇, 都甲 薫
    • 学会等名
      第50回炭素材料学会年会
  • [学会発表] Application of III-V Compound Semiconductors to Lithium-Ion Batteries Using Machine Learning2023

    • 著者名/発表者名
      野沢 公暉, 石山 隆光, 西田 竹志, 末益 崇, 都甲 薫
    • 学会等名
      第42回電子材料シンポジウム
  • [学会発表] 半導体薄膜の低温結晶化プロセスとデバイス応用2023

    • 著者名/発表者名
      都甲 薫
    • 学会等名
      東京大学マテリアル工学セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 次世代電子デバイスに向けた高機能半導体薄膜の開発2023

    • 著者名/発表者名
      都甲 薫
    • 学会等名
      会いに行ける科学者フェス
    • 招待講演

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公開日: 2024-12-25  

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