前年度の研究において、水滴発電素子の発電性能向上にとって重要な知見が得られた。具体的には、下部電極と摩擦帯電膜との間に、非晶質フッ素樹脂を挿入することや、ガラス基板表面のパターニングより比表面積を増加させることである。今年度は、前年度に得られた高性能化指針を発展させ、水滴発電素子のさらなる性能向上を目指して様々な研究を実施した。まず、表面電極と水滴の接触が等価回路的には寄生容量の役割を担うことに着眼し、水滴と電極の接触面積を低減し、その影響を最小限に抑えることを試みた。具体的には、電極を針状にする改良により、厚さ50 umの非晶質フッ素樹脂を用いた水滴発電素子において1200 Vを超える高い出力電圧を実現した。さらに、電流増加のためには、非晶質フッ素樹脂の実効的な誘電率を高めること効果的であることを着想し、非晶質フッ素樹脂に微量の強誘電体ナノ粒子を混合した複合膜を用いることを試みた。強誘電体ナノ粒子の添加量を系統的に変化させた実験を実施した結果、適切な混合率において、電流が増加することを実証した。また、長期信頼性の向上を図るため、表面電極上に保護膜を製膜した。この保護膜により、酸やアルカリに対する腐食耐性が向上した。また適切な材料と膜厚を選定することで水滴が直接表面電極に接触しなくても発電できることを示した。さらに、複数の表面電極を有する水滴発電素子を設計・作製し、表面電極間の間隔を調整することで、複数のランダムな水滴から効率的にエネルギーを収集できることを実証した。これらの研究により、自然界における雨のように、実環境における発電に有望な水滴発電素子の設計指針を示すことができたといえる。このような水滴発電素子を表面に実装したガラスを太陽光発電モジュールに利用することで、雨天時にも発電できるモジュールの実現が期待できる。
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