本研究では、室温近傍で絶縁体-金属相転移を示す二酸化バナジウム(VO2)と二次元半導体をヘテロ構造化させることで、周波数を変調可能な振動子の作製を試みた。2022年度は物理気相成長(PVD)法によって転写可能なVO2ワイヤをSi/SiO2基板上に合成することに成功した。最終年度はまず、PVD法によって合成したVO2の相転移特性を詳細に調べた。その結果、Si/SiO2上にPVD合成したVO2結晶はバルクの相転移温度である340 Kを超えても完全に金属相に相転移することはなく、縞状に絶縁層が残存することが分かった。ラマン分光法を用いてこの縞部分の結晶構造を調べたところ、VO2の準安定構造であるM2絶縁層であることが明らかになった。この結果は、PVD合成過程においてVO2のc軸方向に歪みが生じたことを示唆している。340 K以上に温度を上げると縞状絶縁層の面積は小さくなり、やがて400 KほどでVO2結晶全体が金属相へと変化した。結晶全体で絶縁体-金属相転移が完了する温度はVO2の膜厚に依らないことが分かった。PVD成長させたVO2の相転移特性に関する理解が深まったため、次はVO2と二次元半導体をファンデルワールスヘテロ構造化することを試みた。粘弾性ポリマーを用いてVO2をSi/SiO2基板上から剥がし、別の基板上に機械剥離したMoS2上へと転写した。その後フォトリソグラフィーと抵抗加熱蒸着によって電極を作製し、VO2を電極、SiをバックゲートとするMoS2トランジスタを完成させた。作製したMoS2トランジスタにおいて、n型動作が観察され転写したVO2が電極として機能していることが分かった。これらの実験結果はMoS2トランジスタにゲート電圧を印加することでVO2の相状態を変調可能なことを示しており、ゲート変調可能な相転移振動子の実現を期待させるものである。
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