研究課題/領域番号 |
22K18821
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小槻 峻司 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 教授 (90729229)
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研究分担者 |
市井 和仁 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 教授 (50345865)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 観測位置最適化 / データ同化 / 数値気象予測 / データ駆動型 / 陸域モデル |
研究実績の概要 |
本研究は、情報科学分野で深化したスパースセンサ最適化手法を水工学に応用し、費用対効果の高い観測位置決定手法を開拓する。(1)「気象庁の2船舶を東シナ海のどこに配置しゾンデにより大気プロファイルを観測すると、集中豪雨予測を改善できるか」、(2)「新たな地表面フラックス観測をアジア圏のどこに設置すると、陸域水熱収支推定を効率的に改善できるか」という2つの問いを探求する。観測位置最適化を含む新しい観測システムシミュレーション実験 (OSSE) により、実務者/観測研究者を納得させうる効果を証明し、気象庁やAsia Fluxとの共同実証実験への展開に挑戦する。 これまでスパースセンサ位置最適化 (SSP) アルゴリズムの開発を進め、局所低次元性、アンサンブル予測を活用する技術開発を行ってきた。特に、アンサンブル予測に適用する手法では、全球大気モデル (SPEEDY)を用いた実験で機動的観測についても既存のアンサンブルスプレッドを用いた方法を上回ることが可能である事を示し、論文を投稿中である。また、SSP手法について数学的考察を行った。観測インパクト推定や観測空間統計など、データ同化で良く用いられる手法との比較検討を行い、SSP手法とデータ同化手法との類似点・相違点を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SSPはより少ない観測点で全体の場を推定することに着目し、過去のデータから最適なセンサ位置を決定し、場の再構成を実現可能にする (Manohar et al. 2018)。既存のSSP手法は、過去のデータに対して次元圧縮を行い、その次元圧縮された特徴量をベースに静的な観測ネットワークを構築するものである。今年度は、既存手法を機動的観測に発展させる手法の開発を進めた。全球大気モデルSPEEDYや、簡易力学モデルLorenz40変数モデルを用いて、アンサンブル予測に対してSSPを適用する手法では、既存のアンサンブルスプレッドを用いた方法を上回ることを示した。また、SSP手法について数学的考察を行った。観測インパクト推定や観測空間統計など、データ同化で良く用いられる手法との比較検討を行い、SSP手法とデータ同化手法との類似点・相違点を整理した。特に、情報量理論の観点からのSSPやデータ同化研究の整理は有用であると考えており、成果をまとめて英語論文を準備中である。 これまでの研究により、観測システムシミュレーション実験 (OSSE)に関して順調に研究が推進されている状況にある。また本研究の成果に基づき、2023年度から鉄道総合技術研究所との実証実験を含む共同研究が開始されている。この鉄道総合技術研究所との実証実験では、既存の地上観測点の空間代表性の評価や、新たに観測を置くべき地点の選定が勧められており、社会実装に向けても着実に進捗を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
今度の方策は以下を推進する。 (1) 集中豪雨の予測: OSSE準備を進め、船舶ゾンデ位置の最適化と集中豪雨へのインパクト推定に取り組む。気象庁・気象研究所とは共同研究契約を締結しており、2ヶ月に一度程度の定期的議論を図ってきた。今年度は、現実的な数値天気予報が可能なアンサンブルデータ同化システムSCALE-LETKF (Lien et al. 2015) を用いた研究を進め、本研究で提案するスパースセンサ位置最適化研究の有効性を、数値実験で示していく方針である。また既存のアンサンブルデータ同化システムは、特にアンサンブル予測に膨大な計算資源と計算時間を要するのが難点である。そこで、アンサンブル予測を実際には計算せずに、オフラインデータ同化によるアンサンブル生成を実現する手法 (Ultra Rapid Data Assimilation) を実装し、現実の数値天気予報でも実用に足る観測位置決定手法の開拓を進める。 (2) 陸域水熱収支推定: 上述の集中豪雨の予測向上を目指した機動的観測の観測位置最適化に加え、静的な陸域観測網の最適化研究を進める。本研究で進めるセンサ位置最適化研究は、一般にOSSEは可能であるが、実証実験が困難である。次年度から「現実世界に測器を置いて手法の有効性を検証する」実証実験を進める。特に、鉄道総合技術研究所による実際の雨量計配置などの実証実験では、開発してきた数理手法の開発検証を進める。またこれまでは、特異値分解などの線形情報圧縮手法を用いたスパースセンサ位置最適化研究を進めてきた。今年度は新たに、変分オートエンコーダ (Variational Auto-encoder; VAE) などの機械学習を含めた非線形情報圧縮手法についても調査し、より地球環境データに適した情報圧縮手法についても開拓する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に研究結果の複数の論文化を予定していたが、英語論文化の進捗に時間を要したため、2024年度の論文化を準備中である。
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