研究課題/領域番号 |
22K18832
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
矢野 真一郎 九州大学, 工学研究院, 教授 (80274489)
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研究分担者 |
渡部 哲史 京都大学, 防災研究所, 特定准教授 (20633845)
丸谷 靖幸 九州大学, 工学研究院, 助教 (50790531)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 気候変動 / 洪水 / ダム / リスク評価 / 流域 / 異常洪水時防災操作 |
研究実績の概要 |
九州地方に存在する筑後川水系の松原ダムと下筌ダム,川内川水系の鶴田ダム,ならびに白川水系に建設中の立野ダム(流水型ダム)について,大規模洪水時に発生する可能性が高い異常洪水時防災操作への移行確率を,現在気候と将来気候(平均気温4度上昇)に対して算定した.その際、降水量と気温については,地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース"database for Policy Decision making for Future climate change (d4PDF)"を用いた.利用の際はバイアス補正を両方の計算結果に行った.ダムへの流入量については,集中型流出モデルを作成し,精度良く流入量が評価できることを確認の上,使用した.ダムについては,既存の放流ルール,ダムのH-V関係データを用いて,流入量に対して合理的な放流量を設定できるモデルを作成した.これらを用いることで,ダムの操作についての将来予測が可能となった.その結果,例えば,下筌ダムにおける異常洪水時防災操作移行確率は,現在気候で1/63が将来気候で1/17に,同様に松原ダムでは1/375が1/174へと増加することが確認された.加えて,現在のダムの構造のまま操作方法を変更することでどの程度異常洪水時防災操作への移行を回避可能かを,(1)同操作開始水位からサーチャージ水位まで貯留する方法,(2)洪水調整開始時から計画最大放流量で一定放流する方法,(3)両者を併用する方法,を適用して検討した.その結果,下筌ダムで6割弱,松原ダムで75%を回避できることが明らかとなった.さらに,回避できない場合でも避難のためのリードタイムを3時間程度確保できることも明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は本課題のベースとなる,流出モデル,ダムモデルを構築し,気候変動予測アンサンブルデータセットのバイアス処理済みデータを作成し,それらから4つのダムについて異常洪水時防災操作への移行が起こる確率を現在気候と将来気候(4℃上昇)に対して定量的に評価することに成功した.これは,研究計画に上げた3つの目標のうちの一つである「ダムの異常洪水時防災操作に関する問題」についての解答が得られたことになる.加えて,異常洪水時防災操作というダム操作における最悪の状況を回避するために必要となることについての検討も行い,現在のダムの構造において現実的に実施可能な操作方法の提案とそれらによる異常洪水時防災操作の回避可能性を定量的に評価することにも成功した.また,それでも避けられないケースがあることも分かったが,その発生確率は非常に低いことや,上述の操作を加えることで避難に必要とされる3時間程度のリードタイムを稼ぐことが可能であることも明確になった.また,ダムの操作の結果としてダム放流量が決定されるが,それらによりダムの下流で発生する氾濫がどのような規模で起こりうるかについて,ダム放流量のみでなく支川の流量を加味した解析を行い,より現実的な評価を行うなど,現状想定できる将来予測としては信頼性が高い評価を実行できたと考えている.以上より,初年度の進捗としては順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に完成したモデルを用いて,研究計画で上げた他の2つの目標である,「ダム事前放流に関する問題」と「非出水期洪水に関する問題」にアプローチしていくことを考えている.その際,新たな課題として,事前放流判断基準を気候変動予測アンサンブルデータセット内でどのように設定するのかという点のブレークスルーが必要になると想定しており,その解決が研究の主要な内容となると考えている.また,非出水期の洪水発生については,現状のモデルで評価可能ではあるが,分布型流出モデルを用いるなど,より信頼性を高い評価手法へのバージョンアップも想定している.これらの方法論の適用により,残り2つの課題へアプローチし,解決へ向けて進展させたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で,予定していた調査が実行できなかったため,次年度に回すこととした.R5年度に当該調査を実行する計画である.
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