研究課題/領域番号 |
22K18846
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大久保 孝昭 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (60185220)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 被災住宅 / 住民支援 / ドローン / 常時微動 / リサージュ |
研究実績の概要 |
2022年度は,RC造建築物を対象とした基礎検討を実施した。既往の研究で実施した鉄筋コンクリート造の建築物や道路床版の計測では,無線加速度センサは強力な両面テープで計測対象と接着一体化させた(以下,通常計測と記す)。本研究では無線センサを搭載したドローンを構造物に着陸させた状態で微動計測を行うため(以下,ドローン計測と記す),このセンサ設置方法が計測データに及ぼす影響を検討することは必須である。そこでまず,9階建てRC造建築物(低層はSRC),1階建て壁式RC造建築物を対象として常時微動計測を実施した。 (1)センサを構造物に直接設置した場合とドローン計測の微動計測の相違 9階建てRC建築物の最上階RC床で微動計測を行い,ドローン計測と通常計測の比較をおこなった。その結果,ドローン計測は通常計測と同じ固有周波数が求められることが明らかとなった。特に1次固有周波数のみならず,2次固有周波数,3次固有周波数も計測できた。 (2) 1階建てRC造建築物のリサージュ描写 本計測は,戸建て住宅などの低層建築物のリサージュ描写に関し,1階建てRC造建築物の屋上の4隅にセンサを設置して通常計測とドローン計測の比較を行った。その結果,固有振動を表す水平方向の動きを描写できており,動画で観察しても通常計測と差がないことを確認できた。このような剛性の高い低層のRC建築物でドローン計測と通常計測に差がないということはドローン計測の計測対象が広いことを示しており,ドローン計測による建築物の診断技術を確立する見通しが得られた。特に低層の壁式RC造建築物での計測が可能であったことは,計測対象の構造形式の範囲が広くなると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,無線加速度センサとドローンによる計測システムの確立のために,最初に行うべき課題として下記の4項目を抽出した。 1.ドローンの建築物への固定度の確保,2.ドローンのサスペンションが計測結果に及ぼす影響,3.ドローン計測時の風速が計測結果に及ぼす影響,4.無線加速度センサの傾き補正技術 この4項目を検討するためにまず,ドローン1台を選定して購入して実験検討を行った。その結果,選定したドローンを用いて建築物の微動計測が十分に行えることを確認できたため,3台を追加購入して,損傷度診断に必要な計4台のドローンで実験を行うことができた。その結果,ドローン計測で建築物の固有値解析やリサージュ描写ができることの見通しが得られた。すなわち,当初予定した研究計画,スケジュールおよび実験成果と合致しており,本課題が順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究で,ドローンに積載した無線加速度センサの計測結果に及ぼす「建築物への固定度の影響」,「風速の影響」および「屋根勾配の影響」を検討し,本技術が実際の被災建築物に適用できる見通しを得た。 2023年度は,リサージュ描写を高速処理が可能な電子基盤に移築して,計測とリアルタイムで描写することを実現する。計測精度の検証・向上には,試作したシステムを実験室レベルの模擬劣化試験体に適用し,高周波数領域での計測が容易な光ファイバ計測値と比較しながら改良を行う計画である。なお,模擬劣化試験体は,木構造,軽量鉄骨構造およびRC構造の構造部材とする予定である。2023年7月に広島大学に3次元の振動台が設置されることとなった。そのため本研究ではこの振動台を活用して地震による構造物の損傷の進行を検討することが可能となった。 更に,実験室で得られた成果を実用化するためには,様々な建築物や部位で計測された計測値から建築物の劣化・損傷状況とその補修・補強仕様を論理的かつ分かりやすく提案する技術が鍵となる。そのため広島大学内の施設(戸建て住宅相当の小規模実験棟)や近隣住宅で被災住宅の模擬計測を行い,本提案による計測システムや解析システムの検証を行う。最終成果として,3次元リサージュを建築物の補修や改修工事の効果を速やかにかつ合理的に提示する技術のプロトタイプを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年7月に広島大学に3次元振動台が設置されることとなった。常時微動による建築物の損傷度診断に関する実験では,この振動台を利用する方が効率的な実験ができるものと判断した。そのため,地震による建築物の損傷実験の一部を2022年度から2023年度に変更したため,次年度使用額が生じた。次年度使用額は2023年度分の助成金と合わせて,試験体作製費用,計測・解析用ソフトおよび振動実験における謝金として使用する計画である。
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