研究課題/領域番号 |
22K18849
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
久田 嘉章 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 教授 (70218709)
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研究分担者 |
久保 智弘 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (80601898)
村上 正浩 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 教授 (90348863)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 複合災害 / 土砂災害 / 水害 / 建築物の被害調査 / 2021年熱海市土石流災害 / 2020年熊本県球磨川水害 |
研究実績の概要 |
従来の建築物の災害対策は主に耐震・耐火・耐風であったが、近年、水害や土砂災害が多発しており、様々なハザードを想定した複合災害に対する調査研究が必要である。本研究では、近年発生した水害・土砂災害による建物の被害調査を実施し、被害の実態と有効なハード・ソフト対策を確認する。さらに従来の耐震・耐火に加えて、建築物に想定される各種災害に有効な対策を組み合わせ、それによるレジリエンス性能を評価し、複合災害による被害を効果的に低減する耐複合災害建築の実現化を目的とする。2022年度は、土砂災害と水害の実態調査の結果の分析を行った。まず土砂災害としては、2021年熱海市伊豆山地区の土石流による146棟の建築物の被害調査を実施した。その結果、2m程度以上の堆積厚の土石流を受けた場合、木造家屋では約8割は流出・倒壊、約1割は大破していたが、RC造では全て残存し、7割は中破、残りは小破以下であることを明らかにした。さらに盛土やピロティ―、高床構造は土石流圧を低減する効果があり、堆積厚より高いところに居住空間があれば生存可能であることを確認した。さらに購入したワークステーションを用いて粒子法による土石流の数値シミュレーションを開始し、検束結果と整合する結果を得ることができた。一方、水害では2020年熊本県球磨川水害による人吉市と球磨村にて被害調査を実施し、700棟を超える建築物のデータを収集した。各地の浸水深と流速データを使用し、国土交通省の家屋倒壊等氾濫想定に使用される木造家屋の倒壊等限界のための被害関数と比較し、流失・倒壊の調査結果とほぼ整合する結果を得た。一方、木造と比較してRC造や重量S造は高流速にも有効であり、また盛土やピロティ―、高床構造、さらには建物群を構成する場合に被害低減効果があること、などを確認した。これらの成果は日本建築学会等の関連学会にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土砂災害としては、2021年熱海市伊豆山地区の土石流による146棟の建築物の被害調査を実施し、一方、水害では2020年熊本県球磨川水害による人吉市と球磨村にて被害調査を実施し、700棟を超える建築物のデータを収集した。このデータを用いて、耐震対策(築年や構造、階数など)の有効性や限界を分析することができた。また参加研究者に加えて、研究協力者として土砂災害の専門家である安田教授(東京電機大)、水害の専門家である田村客員教授(千葉大)、二瓶教授(東京理科大)らと研究会を4回開催し、土石流と洪水によるシミュレーション結果との比較検討を実施したなどの成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
土石流と洪水被害に関しては、2021年熱海市伊豆山地区土石流災害と2020年熊本県球磨川水害(人吉市・球磨村)での調査結果と並行して、数値シミュレーション結果とも比較検討し有効な建築的対策に関する知見を蓄積する。調査地域では現在でも復旧対策が進行中である建築物のハード対策に加えて、避難計画や復興計画など、生活再建から復旧・復興に向けた進捗状況を調査し、複合災害に有効な建築・まちづくりに関する知見も蓄積する。一方、2023年2月のトルコ南部地震では大規模な地表地震断層が出現するなど、震源近傍の強震動に加えて、断層変位による建築被害も発生した。申請者(久田)は現地調査を実施しており、耐震設計や地すべり・液状化など地盤変状対策に共通する有益な知見を得ることができた。これらの成果を日本建築学会や地震工学シンポジウム等の関連学会にて発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも土石流の数値シミュレーション用のワークステーションと球磨川水害等での旅費が安価であった。次年度は数値シミュレーションの結果をフルに活用するとともに、球磨川水害等の生活再建から復旧計画の現状を調査し、さらに新たに生じる可能性のある各種災害の発生対応も念頭に置きつつ、マルチハザードに対応可能な耐複合災害建築に関する知見を拡充する予定である。
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