研究課題/領域番号 |
22K18855
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
鷹尾 祥典 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80552661)
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研究分担者 |
村上 勝久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (20403123)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 電気推進 / イオン源 / 電子源 / グラフェン / 超小型衛星 |
研究実績の概要 |
近年、超小型衛星の打ち上げ数が激増しており、大規模コンステレーションや深宇宙探査にも使われ始めている。このような高度なミッションには高い増速量と高い比推力(燃費に相当)を有する推進機が不可欠であり、その筆頭格はイオン推進機である。しかし、小型化すると表面積割合の増加から性能の劣化が避けられず、特に元来小さい電子源(中和器)はなおさらである。本研究では、中和器側の抜本改善策として上部電極をグラフェンとし低電圧作動が可能で推進剤が不要な高電流密度平面型電子源を利用するとともに、イオン源では電子源と金属陰極との併用によりこれまで安定しなかった高電流密度モードを実現させ、超小型イオン源の効率を大幅に引き上げることを目的とする。 2023年度は、プラズマ耐性のある保護膜(六方晶窒化ホウ素およびアルミナ)を電子源へ適用するため、化学気相成長法および原子層堆積法を利用した保護膜プロセスの最適化により電子源の原子状酸素への耐性を向上させた。一方、電子源の保護膜作製と並行し、まずはフィラメント電子源を利用したイオン源作製を進め、最適な磁場配置および電位構造の設計指針を構築した。それに基づき、作製した超小型イオン推進機の放電実験でプラズマ診断によりプラズマ分布の把握を行うとともにイオンビーム引き出し実験を行ったところ、中心の磁極を従来と反転させてカスプ構造を上流側に2カ所設けることにより、放電室内部でより一様なプラズマ生成が実現でき、イオンビーム引き出し電流の向上につながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中心の磁極を従来と反転させてカスプ構造を上流側に2カ所設けることにより磁場配置および電位構造の最適化を進めた結果、プローブ診断およびイオンビーム引き出し実験を行ったところ、放電損失は約半分に向上するとともに推進剤利用効率も2割程度向上させることができたため。その一方で電子源の保護膜に関しては耐酸素性の向上は見られたものの電子放出特性に関しては保護膜無しのものと比較して劣っており改善が求められる。現在、基板構造を改良することで電子電流密度のさらなる向上を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は以下の方法により研究を遂行する。 ①電子源の電子放出電流密度向上 保護膜付においても十分な電子電流を確保するために、電子源の基本性能である電流密度のさらなる向上を図る。そのために、電子源の基板を変更して絶縁層に二酸化ケイ素よりさらに電子エネルギー障壁の低い六方晶窒化ホウ素を利用したデバイス構造の確立を目指す。 ②イオン源の改良ならびに放電の解析 昨年度までに改良したイオン源において放電電圧を3割程度下げられたが、さらに低い放電電圧での放電が可能な実験条件を求めることでイオン生成コストのさらなる低下を、そして、より少ない推進剤流量においてのイオンビーム引き出しを実現することで、推進剤利用効率のさらなる改善を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額から前年度未使用額を差し引いた額は当該年度所要額に対して3%未満であり、概ね予定通り使用したと言える範囲と考えられる。結果、次年度も当初予定通り助成金の使用を行う。
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