研究課題/領域番号 |
22K18859
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10216806)
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研究分担者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学研究科, 助手 (20252794)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 原子状酸素 / 超低軌道宇宙環境 / イオンエンジン / 大気圧縮 / インテーク / VLEO |
研究実績の概要 |
本申請は超低軌道用電気推進システムとして理想的な大気吸入イオンエンジン(ABIE)実現のキーテクノロジーである高圧縮インテークを世界で初めて実現しようとするものである。高圧縮インテークを実現することで長寿命・低コストな衛星コンステレーションを実現でき、超低高度衛星群の実用化を切り開く強力な基盤技術となる。ABIEにおいて要求される高圧縮インテークは、分子流領域で分子の逆流を防ぐことが要求されており、通常の流体力学では解決が不可能な命題である。分子流領域では分子/固体表面間の散乱過程を制御することが唯一の方法となる。そこで、固体表面原子の種類、平滑度(表面粗さ・うねり)、表面構造、等ポテンシャル面形状を最適設計することにより非等方的な散乱特性を実現するアイデアを理論的・実験的に検証する。研究初年度であるFY2022年度には、まず実験的アプローチとして微細加工で試作したサンプル表面での散乱分布特性を分子線散乱実験装置を用いて実測した。その結果、試作した表面での分子散乱は方向性を有するダイオード的特性を有することが確認できた。一方、計算的なアプローチとしては、前述の実験的に計測した散乱特性を組み込んだDSMC計算により圧縮特性の評価を行うためのコードに入射角に応じたCLLモデルを適用できるように新規なDSMCコードの作成を行った。さらに2024年度に観測ロケットS-310-46号機での圧縮インテーク評価実証機会を確保できたことから、この機会を利用して観測ロケットの大気密度計測装置に高圧縮インテークを実装し、その宇宙実証結果と地上試験結果との整合性を確認する稀有な機会を得た。これにより宇宙実験結果をDSMCにフィードバックすることができ、大気吸入電気推進システム実現のキーテクノロジーとされる高圧縮インテークについて実践的な研究開発を行うための準備を整えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度であるFY2022年度には、本申請内容を含むプロジェクト全体を完遂するために、年度当初の計画に従い研究を実施した。まず実験的アプローチとして微細加工で試作したサンプル表面での散乱分布特性を分子線散乱実験装置を用いて実測した。レーザ不調のため熱速度のビームによる実験であったが、この表面での分子散乱は方向性を有するダイオード的な振る舞いをすることを確認できた。さらに固体表面原子の種類、表面構造等を最適設計することにより非等方的な散乱特性を実現するアイデアを実験的に検証しつつある。一方、計算的なアプローチとしては、実験的に計測した散乱特性を組み込んだDSMC計算を実施し、圧縮特性の評価を行うためのDSMCコードに入射角に応じたCLLモデルを適用できるようにDSMCコードの変更を行った。さらに、コリメータの効果や反射面形状の最適化についてもDSMCを用いて評価を行った。その結果、圧縮率を大幅に増大できる可能性のある基本構成を見い出した。さらに2024年度に観測ロケットS-310-46号機での圧縮インテーク評価実証機会を確保できたことから、この機会を利用して観測ロケットの大気密度計測装置に高圧縮インテークを実装し、その宇宙実証と地上試験結果との整合性を確認する稀有な機会を得た。この機会を利用して、高圧縮インテークの地上実験結果とDSMCによる予測性能を軌道上で実証することが可能になった。現在、観測ロケット搭載用システムの基本設計と艤装設計を行いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
FY2023年度以降には、各々のサブテーマごとに直面する課題にアプローチする。まず実験的には、分子散乱に方向性を有するダイオード的な振る舞いをする表面を実現したのに続き、固体表面原子の種類、表面構造等を最適設計する。またDSMC計算で有効性が予測されている反射方向を制御できる表面を創生するための微細加工方法について検討を行う。これには3Dプリンティング、電鋳、フォトリソグラフィ等を候補としている。これらの方法で微細加工表面を製作し、その散乱特性を実験的に検証する。レーザ装置のメンテナンス後には超熱速度ビームでの実験も実施する。一方、計算的なアプローチとしては、FY2022に達成したCLLモデルを適用したDSMCコードと、従来のマクスウェル反射モデルを比較し圧縮率に与える影響を評価するとともに、後述の観測ロケット周りの気流等についても評価を行う。さらにFY2024年度に実施予定の観測ロケットS-310-46号機での圧縮インテークフライト実証実験については、観測ロケット搭載用システムの艤装設計が遅延していることから、JAXA観測ロケットチームと協力して艤装設計を早期に終了し、振動試験、衝撃試験、風洞試験に移行し、FY2023年度末の計器合せ試験、噛合せ試験に向けて計画を確実に進めて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
FY2023年度予算がFY2024年度以降に繰り越された主な要因は2つあり、1つは炭酸ガスレーザー装置の故障、もう1つはS-310-46号機艤装設計の遅延である。前者については業者の都合によりメンテナンスが2024年5月に予定されていることから、レーザ回復後に超熱エネルギービームを用いた圧縮実験を再開する予定である。後者については、現在JAXA観測ロケットチームとも協力して艤装設計を早期に終了し、コンポーネント部品の製作・組立、振動試験、衝撃試験、風洞試験に移行で切るように調整中であり、FY2023年度末の計器合せ試験、噛合せ試験に向けた準備を行う予定である。なお搭載装置の微細加工方法等についてはFY2022年度中に目途を立てることに成功しており、問題なく計画を進捗できると思われる。
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