研究課題/領域番号 |
22K18887
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
深見 一弘 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60452322)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / ミディアムエントロピー合金 / 電析 / エマルション / イオン液体 |
研究実績の概要 |
エマルションを電解液に用いた「ナノカプセル電析」によるハイエントロピー合金(HEA)電析技術を確立する。従来の水溶液や有機溶媒のような単相の電解液を用いた電析の場合、HEAやミディアムエントロピー合金(MEA)を製膜することは理論上極めて難しい。本研究では、相分離したエマルションに着目し、これを電解液としてHEAやMEAを電析するナノカプセル電析技術の確立を目指している。本年度は、初年度に電析に成功したCr-Co-Ni MEAについて、より詳細な検討を進めた。ナノインデンターによる機械特性評価の結果、電析Cr-Co-Ni MEAは高い耐摩耗性を有し、400℃程度でアニールを行うと従来の硬質クロムめっきを遥かに超える耐摩耗性をもつことが明らかとなった。また、腐食挙動の把握のために電気化学測定を実施したところ、幅広い電位領域で不動態化がみられ、この挙動も従来の硬質クロムめっきを超えることが明らかとなった。一方、電析に成功したメカニズムについても検討を進めた。Cr-Co-Ni MEA電析ではエマルションではなくイオン液体(CnmimCl, n=2, 4, 6)と水溶液の混合液体を電解液に用いている。この液体について分子動力学シミュレーションにより液体構造を推定した。CnmimClのn=2のときは水溶液とイオン液体が良く混ざり、相分離構造は示さない。一方で、C=4や6のイオン液体ではイオン液体の非極性部が集まった相分離構造を示すことが明らかとなった。実際にCr-Co-Ni MEAの電析はC=4や6のイオン液体を用いた場合にのみ成功したことから、メソスケールでの液体の相分離構造がエマルションと同様のはたらきをもち、MEA電析を可能にしたと考えるに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた検討内容は全て終えた。Cr-Co-Ni MEA電析は今回の研究では達成が難しいと考えていたが、想定を超えてこれを実現し、PCTによる国際出願にまで至っている。また、関連する論文は既に投稿を済ませ、改定の段階にある。このような状況のもと、最終年度は当初計画にない新たなHEAやMEA電析技術の開拓を試みる予定である。これらの理由から当初計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは現在投稿中のCr-Co-Ni MEA電析に関する論文の受理を目指す。一方、電析技術が得意とするナノ構造形成に取り組み、これまでに報告されていないナノロッドなどのHEAやMEAナノ材料の創製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はMDシミュレーションなどの検討を中心に行ったこと、運営費を利用したなどの理由から支出はない。研究が大きく進展しており、最終年度は実験を中心とした検討に切り替えるため、次年度の使用額を大きくする必要がある。
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