研究課題/領域番号 |
22K18888
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 伸泰 京都大学, 工学研究科, 教授 (30263213)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | バルクナノメタル / 鉄鋼材料 / オーステナイト / 加工熱処理 / 力学特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高温相であるため結晶粒超微細化が困難であった炭素鋼のオーステナイト相の結晶粒超微細化に挑戦し、平均粒径1μm以下のオーステナイト組織を作製する事である。中Mn低炭素鋼に対して、巨大ひずみ加工した低温相の急速加熱・急速冷却、またはA3温度直上での強加工による結晶粒超微細化を試みる。原子拡散が活発となる高温では、転位の消滅(回復)や再結晶・粒成長が短時間で進行するため、高温相の結晶粒超微細化は困難である。金属・合金の高温相の結晶粒超微細化を達成したという報告はなく、本研究は挑戦的研究として大きな意義を有している。オーステナイトは鋼の熱処理の基本となる組織であり、結晶粒超微細化を達成できれば、超微細粒オーステナイトからの相変態という新しい研究分野が開拓される。また、卓越した力学特性を有する最終組織が実現できる可能性が高い。 第1年度である2022年度は、3-6wt%のMnを含む中Mn低炭素鋼を用い、高温相オーステナイトの結晶粒超微細化に挑戦した。Mnはオーステナイト安定化元素であり、その添加によりオーステナイト単相領域の下限温度であるA3点(純鉄では 911°C)が低下する。これにより回復・再結晶・粒成長を抑制し、結晶粒超微細化が実現できる。オーステナイトの結晶粒超微細化のために以下の加工熱処理法を用いた。低温組織に対して巨大ひずみ加工を施し、ソルトバスを用いたA3点直上温度への急速加熱・短時間熱処理を行なって、超微細粒オーステナイト組織を実現する。この結果、中Mn鋼において高温相オーステナイトの結晶粒径を1μm程度まで微細化することが可能であることを明らかにした。この成果を純コバルトに対して応用し、コバルトの高温FCC相を室温で安定化することに成功した。また、高温強加工による結晶粒微細化の実験において、高温変形中の動的相変態の発現理由に関する重要な成果も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3-6wt%のMnを含む中Mn低炭素鋼を用いて高温相オーステナイトの結晶粒超微細化に挑戦し、低温組織に対して巨大ひずみ加工を施し、ソルトバスを用いたA3点直上温度への急速加熱・短時間熱処理を行なうことによって、高温相オーステナイトの結晶粒径を1μm程度まで微細化することが可能であることを明らかにした。また、この成果を純コバルトに対して応用し、コバルトの高温FCC相を室温で安定化することに成功した。さらに、高温強加工による結晶粒微細化の実験において、高温変形中の動的相変態の発現理由に関する重要な成果も得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通りに実験研究を進める。低温相の巨大ひずみ加工と急速加熱熱処理により得られた微細粒中Mn鋼の力学特性を検証する。また、Fe-Mn-C合金に微細炭窒化物形成元素であるTiやNbを微 量添加した鋼も用い、超微細粒組織のさらなる安定化を図る。オーステナイト相の結晶粒超微細化の方策として、A3点直上温度でねじり強加工を行い、中高温でのGrain Subdivisionあるいは動的再結晶による結晶粒超微細化を試みる。予期せず見出した純コバルトの高温FCC相の安定化や、動的相変態の原理に基づく組織微細化研究も展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を発表するために参加を予定していた国際会議に、COVID-19パンデミックのために参加できなかったことによる。研究計画自体に大きな影響は生じていないため、当初計画通りに次年度も研究を進めるとともに、発表にふさわしい別の国内学会・国際会議で成果発表を行い、その旅費として次年度使用額を用いる。
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