研究実績の概要 |
合金固溶体中の元素分布はランダムではなく,結合性や原子サイズの違いなどに起因して多様な周期性を持つことが明らかになりつつある.従来その規則性は短距離相互作用に基づいて議論されてきたが,一方で高強度軽合金などで見られる長周期規則構造の形成は,隠れた“中・長距離”相互作用の関与を示唆している.本研究では,鉄結晶をモデル系として,新たに侵入型副格子の元素の規則配置を置換型副格子の元素配置および構造相変態と重畳させて行う挑戦的テーマ「サブラティスエンジニアリング」を提唱し,その設計原理を現象の包括的な理解に基づいて探索することを目的とした. Fe-35at%Ni fcc合金をベースに窒化物生成元素であるCrを添加したFe-35at%Ni-10at%X(X=Al, Mo, Cr, V)オーステナイト合金の溶体化材に低温プラズマ窒化処理を施し,そのナノ組織解析を行った.その結果サブラティス間でのX-N引力相互作用に起因したスピノーダル分解によりX-Nクラスタリングが生じ,著しく硬化することを見出した。さらに,Cr濃度勾配を有するFe-35Ni合金とFe-35Ni-30Cr合金の拡散対を窒化することで,Cr-Nクラスタリングと表面硬化に及ぼすCr濃度依存性を系統的に明らかにした. bccマルテンサイト合金における炭素・窒素と置換型元素の相互作用が焼入れおよび焼もどしマルテンサイトの組織と特性におよぼす影響については,ガス窒化後焼き入れで生成した高窒素マルテンサイト材の外部窒化層組織形成および硬化挙動におよぼす置換型元素添加の影響を検討するとともに,化合物層の鋼高炭素鋼マルテンサイトの低温焼もどし組織のマルチモーダル解析により,炭素クラスタリングおよび準安定鉄炭化物の遷移挙動の置換型元素添加による変化を系統的に解明した.
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