研究課題/領域番号 |
22K18897
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 一誓 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60821717)
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研究分担者 |
小俣 孝久 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80267640)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | イオン交換 / 無機材料 / 準安定相 |
研究実績の概要 |
本年度は主に2つの成果を得た。ひとつは、Li化合物に金属Cu膜もしくは金属Ag膜を堆積し、電圧を印加することでLiをCuもしくはAgに置換することである。これにより、従来の固相反応や、加熱によるイオン交換では合成できない化合物の合成を試みた。金属Cuを用いた電気化学的陽イオン置換後の試料の組成分布を、EDXやXPSにより調べたところ、試料中のLiが押し出され、その領域にてCu量が増加していること、すなわち、LiからCuへのイオン置換が進行したことが明らかとなった。この反応は、単なる加熱では生じないことも確認したため、電気化学的に陽イオンが置換できることがわかった。ただし、生成した相は同定することができなかった。金属Agを用いた場合は、新たな相が生じ、LiとAgが固溶した新たな化合物が生じたことがわかった。これにより、電気化学的陽イオンにより新規化合物を合成できることを実証した。 もうひとつの成果は、従来の熱的なイオン置換において、イオン置換を進行させる駆動力を明らかにしたことである。第一原理計算によって、Na、Ag、Cu、およびLi化合物の生成エンタルピーを網羅的に計算し、イオン交換におけるエンタルピー変化を理論的に見積もった。合わせて、実験的にもイオン交換反応を実施し、計算より求めたエンタルピー変化と、実験的なイオン交換の可否を比較した。その結果、エンタルピー変化が負である場合は、ほぼ必ず熱的なイオン置換が生じることを明らかにした。これにより、第一原理計算から熱的なイオン交換反応をデザインできることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電気化学的な陽イオン置換を用いて、従来の条件では合成できない新規化合物が得られることを明らかにした。加えて、第一原理計算から、従来の熱的なイオン交換反応をデザインできることも明らかにした。以上より、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、電気化学的な陽イオン置換法を用いた化合物の合成にさらに取り組む。特に、太陽電池として期待されるβ-CuGaO2をβ-LiGaO2を前駆体とした電気化学的陽イオン置換によって合成する。従来は、β-NaGaO2を前駆体とした熱的なイオン置換がされていたが、β-NaGaO2は吸湿性が高いことや、β-CuGaO2と格子体積が異なり、イオン置換後にヒビ割れが生じるなどの問題があった。β-LiGaO2を前駆体として用いることでこれらの問題が解決するが、従来の熱的なイオン置換ではβ-LiGaO2を前駆体とした反応はできなかった。電気化学的なイオン置換によりβ-LiGaO2からβ-CuGaO2が合成できれば、前駆体に単結晶を用いることで、β-CuGaO2単結晶が得られると期待される。 また、第一原理計算を用いて、従来の熱的イオン置換の可否を評価する手法については、2023年度も引き続き開発を進める。特に、超高温反応の高コストプロセスでしか合成するできない化合物半導体単結晶や、高いイオン伝導度を有する化合物などを、熱的なイオン置換で得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の研究では、イオン交換実験に加え、第一原理計算を用いたイオン交換の可否に関する検討をすすめた。計画していなかった第一原理計算用のワークステーションや計算ソフトウェアの購入を追加したものの、その代わりに2022年度において実験にて必要となる装置や消耗品の購入費用が減額となり、次年度使用額が生じた。2023年度では主に実験をすすめることから、次年度使用額については、これに必要な消耗品に使用する。
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