研究課題/領域番号 |
22K18900
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中田 大貴 長岡技術科学大学, 産学融合トップランナー養成センター, 特任講師 (80800573)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / 圧延加工 / 動的再結晶 / 集合組織 / 変形双晶 / 電子線後方散乱回折 / プレス成形性 / 引張特性 |
研究実績の概要 |
圧延加工後に全面再結晶組織を実現可能なマグネシウム合金探索を行った。動的再結晶を組織全面で生じさせるには、大ひずみ圧延加工が必須であると考えられるが、マグネシウム合金の展伸加工性は低いことが一般的であるため、まずは、大ひずみでも割れなく圧延可能な材料の選定を行った。また、マグネシウム合金の成形性低下の原因となる底面集合組織((0001)面//圧延面)を解決できる材料としてMg-Zn-Ca合金があり、まずは、本合金の圧延加工性に及ぼす亜鉛およびカルシウム添加量の影響を調べたところ、予想通り、カルシウムが多いと、圧延加工時には割れが生じやすいことがわかった。一方で、亜鉛添加は、圧延加工性の向上に有利であることがわかり、0.4%~2.3%の範囲では、亜鉛添加量が増えると、大ひずみ圧延加工時の割れが低減した。以上の結果より、合金組成を決定し、種々の温度にて圧延加工を施した。圧延材の結晶組織を観察したところ、Mg-Zn-Ca合金では、大ひずみ圧延加工後でも、動的再結晶が極めて生じ難いことがわかった。 カルシウムを添加したマグネシウム合金では、展伸加工中に動的製結晶が生じ難いことから、研究代表者が最近開発したカルシウムフリーのMg-Al-Mn合金を用いて、大ひずみ圧延加工に挑戦したところ、十分な圧延加工性を有することがわかり、動的再結晶が顕著に生じることも確認した。特に、圧延材の表層近傍では動的再結晶が促進され、1μm程度の超微細結晶粒を形成できることも確認した。さらに、双晶を起点とした動的再結晶も生じることがわかり、双晶を起点とした動的結晶粒によって、マグネシウム合金圧延材特有の底面集合組織を解消できることも実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マグネシウム合金の実用化を妨げる原因として、展伸加工性の低さが挙げられる。本研究では、この課題を解決し、優れた圧延加工性を持つ材料を提案した。一般的に、合金元素添加量が増大すると、展伸加工性は悪化するものの、従来の常識とは異なり、Mg-Zn-Ca合金では、亜鉛が増えると、むしろ圧延加工性は向上し、大ひずみ圧延加工が可能となることを確認した。高生産性を有するマグネシウム合金開発に有益な知見であると考えられる。 また、既存マグネシウム合金圧延材は、強度と室温プレス成形性の両立が困難であり、この点も、実用化に向けては解決すべき課題となっている。組織設計指針は既に提案されており、結晶粒径の微細化と底面集合組織の抑制が重要となることが報告されている。従来合金およびプロセスでは、これらを同時に満足することが困難であったが、本研究成果として、大ひずみ圧延加工を用いることで、微細結晶組織の形成と底面集合組織の抑制を同時に達成できる可能性を見出した。特に、従来手法である圧延+熱処理の組み合わせによって形成する再結晶粒の微細化は、5μm程度が限界とされていたが、本研究では、大ひずみ加工に伴う動的再結晶により、結晶粒径1μm程度の超微細な再結晶組織を得られることを明らかにした。さらに、大ひずみ加工によって、双晶を起点とする動的再結晶も促進され、マグネシウム合金の室温プレス成形性向上に必須の底面集合組織を制御できることがわかった。 ただし、この双晶を伴った超微細な再結晶組織の形成は、現状、圧延材の表層近傍部分のみに限定されており、圧延材の板厚中央部分では再結晶が不十分であることから、さらなるプロセスの最適化は必要であるものの、マグネシウム合金の新しい組織制御指針を着実に構築できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、優れた圧延加工性と再結晶しやすさを兼ね備えたMg-Al-Mn合金を用いて、圧延加工後の結晶組織と集合組織に及ぼす大ひずみ加工の温度や加工率の影響を調べ、組織全面で再結晶を生じさせるための条件を検討する。また、Mg-Al-Mn合金では、アルミニウムの添加量によって、双晶の発生割合や再結晶挙動も変化することが予想されるため、アルミニウム添加量を変化させた材料も用いて、大ひずみ圧延加工を実施する。さらに、研究代表者は、合金元素の偏析によっても再結晶挙動が変化し、合金元素偏析を圧延加工前の熱処理条件によって制御できることも実証していることから、従来は合金の融点によって単純に決定される均質化処理条件にも注目し、Mg-Al-Mn合金圧延材の組織制御を進める。 Mg-Zn-Ca合金では、目的とする全面再結晶組織を達成し難いことも確認したが、カルシウムが展伸加工時の再結晶を抑制することから、カルシウムを取り除いたMg-Zn合金を用いて大ひずみ圧延加工も試みる。一方で、Mg-Zn合金では、粒界ピン止め効果を有する析出物による結晶粒の微細化は期待できない。大ひずみ圧延加工時には、加工発熱が大きくなり、それにより結晶粒の粗大化が生じることも予想されるため、研究代表者がマグネシウム押出材開発時に見出した、熱間加工性を低下させず、微細な析出物も形成可能なマンガンを添加した合金も作製し、微細再結晶組織の形成と底面集合組織の抑制を同時に満足する加工熱処理条件(均質化処理条件、圧延温度、圧延速度および圧下率)を探索する。
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