初年度(令和4年度)は、反磁場情報の抽出に関わる基盤技術を整備するため、以下の研究を実施し成果を収めた。(1-1)仮想試料を用いた手法の構築・検証:TEM観察と電子回折の実験で決定できる磁化の方向(研究対象としたNd2Fe14B相のc軸方向)と試料形状をもとに、磁化由来の位相変化と、試料外の漏洩磁場由来の位相変化を算出する要素技術を開発した。本技術をもとに、磁石材料内部の反磁場分布をイメージングする手法を構築した。(1-2)単結晶の実試料を用いた手法の検証:上述した手法をNd2Fe14B単結晶の解析に適用し、技術の検証を行った。実験データから導いた反磁場分布は、マイクロマグネティクス計算の結果と整合し、手法の妥当性が示された。 続く令和5年度は、以下の項目設定により、解析が格段に複雑となる多結晶試料への技術展開を図った。(2-1)多結晶の実試料を用いた手法の検証:前年度に開発した手法により、Nd2Fe14B多結晶試料についても反磁場情報の抽出が可能なことを示した。しかし多結晶試料では、入射電子線方向における結晶粒界の重なりや、隣接する結晶粒における回折条件の違い(付加的な位相変化を生じる要因)などの技術的問題が伴い、結果の定量性には課題が残っている。(2-2)反磁場分布の温度依存性の検証:令和5年度の研究では(2-1)に予想以上の時間を要したため、温度依存性の検証は完了することができなかった。本件は今後の課題と位置付ける。一方、温度依存性の評価では短時間でのデータ収集とそれに伴う像質の劣化が問題となるが、同問題を解決し得るノイズ除去技術を整備開発することができた。本件は当初想定していなかった研究成果である。
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