研究課題/領域番号 |
22K18908
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
堀部 陽一 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (80360048)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ドメイン構造 / ナノ構造 / 透過型電子顕微鏡法 / 磁性 |
研究実績の概要 |
磁性スピネルにおいてMn3+イオンのヤーンテラー効果に伴って現れる約15%もの巨大格子歪を利用し、数ユニットセル程度のサイズのドメイン(アトミック・ドメイン)の導入に挑戦するとともに、界面歪を利用した新奇磁性獲得の可能性を探ることである。本年度は、昨年度に引き続き、Mn3+ JTイオンとFe3+磁性イオンを持つ磁性スピネル (Co,Mn,Fe)3O4での自己ナノ組織化を利用して、面内サイズ数ユニットセル程度のナノロッド状アトミック・ドメインを持つチェッカーボード型ナノ構造の作製に挑戦した。具体的には、 (1)Mn3+イオン拡散速度の速い磁性スピネルにおけるイオン拡散速度の制御のため、純アルゴン雰囲気およびアルゴン‐水素雰囲気において水素比を系統的に変化させたセラミック試料作製および熱処理を行った。 (2)(1)で作製された試料について透過型電子顕微鏡法を用いた電子回折観察、明・暗視野像観察、高分解能像観察、および高角環状暗視野-走査透過型電子顕微鏡法観察を行い、局所的結晶構造およびナノ構造について明らかにした。 (3)(2)で得られた結果から、チェッカーボード型ナノ構造サイズの変化について検討を行った。 その結果、還元雰囲気中における熱処理により、チェッカーボード型ナノ構造の成長が著しく抑制されることが明らかとなった。また熱処理雰囲気時の精密制御により、面内最小サイズ ~ 3 nm × ~ 3 nm、平均サイズ~ 5 nm × ~ 5のアトミックドメイン導入が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
激しく変形した界面局所構造を伴う数ユニットセル程度のサイズのアトミック・ドメインの導入に挑戦するとともに、界面歪を利用した新奇磁性獲得の可能性を探るため、昨年度に引き続きMn3+ JTイオンとFe3+磁性イオンを持つ磁性スピネル (Co,Mn,Fe)3O4での自己ナノ組織化を利用して、面内サイズ数ユニットセル程度のナノロッド状アトミック・ドメインを持つチェッカーボード型ナノ構造の作製に挑戦した。本目的達成のため、アルゴン100%雰囲気およびアルゴン―水素雰囲気中においてセラミックス試料の本焼成および熱処理を行い、得られたセラミックス試料における局所的結晶構造およびナノ構造について透過型電子顕微鏡法を用いた電子回折観察、明・暗視野像観察、高分解能像観察を行った。その結果、還元雰囲気中における熱処理により、チェッカーボード型ナノ構造の成長が著しく抑制されることが明らかとなった。また熱処理雰囲気時の精密制御により、面内最小サイズ ~ 3 nm × ~ 3 nm、平均サイズ~ 5 nm × ~ 5のアトミックドメイン導入が見出された。すなわち、本研究で重要なチェッカーボード型ナノ構造を基本としたアトミック・ドメインの導入およびサイズ制御方法の確立が進んでいると考えられる。しかしながら研究期間途中でセラミックス試料本焼成のためのマッフル炉および熱処理雰囲気精密制御のための雰囲気精密制御型管状炉の発熱体が断線し、その調達に時間を必要としたため、本研究はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、還元雰囲気中における熱処理により、チェッカーボード型ナノ構造の成長が著しく抑制されることが明らかとなった。また熱処理雰囲気時の精密制御により、面内最小サイズ ~ 3 nm × ~ 3 nm、平均サイズ~ 5 nm × ~ 5のアトミックドメイン導入が見出された。これらの結果を元に、来年度の研究では、本年度の研究において試料の一部に見出された3 nm × ~ 3 nmのアトミックドメインを可能な限り試料全体において実現し面内平均サイズを減少させるための条件最適化を行うことを試みる。さらに導入されたアトミック・ドメインにおけるイオン位置を原子分解能走査透過電子顕微鏡法を用いた直接観察により調べ、アトミック・ドメイン導入に伴う一軸性配位について明らかにする。得られた結果と磁化測定の結果から、アトミック・ドメイン内での磁性イオン周りの配位環境変化について検討を行い、新奇磁性獲得の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本焼成・熱処理用電気炉の故障により試料作製計画に遅延が出たため、それに付随して物品費および実験装置利用料については当初金額よりも少額となった。年度は、本年度の実験装置使用料も実験装置使用料に充当し、積極的に観察を進める予定である。 渡航費高騰のため国際学会への参加を控えた。そのため、成果発表のための旅費を利用しなかった。来年度は、様々な国内学会・国際学会への参加を予定しており、本年度の旅費も充当する予定である。
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