研究課題/領域番号 |
22K18920
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 浩亮 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90423087)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 重水素 / ギ酸 / 合金ナノ粒子 / 表面修飾 |
研究実績の概要 |
安価で安全な液体であるギ酸(HCOOH)は、次世代のエネルギーキャリアとして注目されている。申請者は、ギ酸からの水素生成反応に優れた金属触媒を重水(D2O)中での反応に用いると、高価な重水素ガスを選択的に合成できることを世界に先駆け報告した。成功の鍵は、固体(触媒)表面上でのH-D交換反応を制御できた点にある。 本研究では、今後の世界的な需要拡大に対応できる低コスト製造法として確立すべく、100%の選択性、反応速度の一桁向上を目指す。目的達成のため、合金ナノ粒子の精密制御ならびに塩基性反応場の設計から多角的にアプローチした。 本年度は、合金ナノ粒子、塩基性反応場の精密制御から検討を行った。合金ナノ粒子は主にギ酸の分解を司る触媒活性点である。特に、Pd、Au、Pt貴金属とFe、Co、Ni、Cu、Zn汎用金属との合金ナノ粒子触媒を開発する。これらは電気陰性度のギャップが大きく、電気的な偏りのあるアンサンブルサイトが発現しやすいが、熱力学的には調製が困難である。本課題を解決するため、申請者が独自に発展させてきた光還元法を駆使し、金属合金触媒のサイズ・形状・組成・構造・電子状態を精密制御を試みた。塩基性反応場は主に重水素ガス(D2およびHD)の選択性を決定する助触媒として機能する。本年度はグラフェンを担体とし、その表面を様々な塩基性を有する塩基性官能基で修飾したところ、塩基性の違いにより、高価な重水素ガスの選択性を制御できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素の同位体化合物である重水素(D2およびHD)は、実験研究用試薬として、また、半導体、光ファイバーなどの製造工程でも使用される高価な特殊ガスである。現状D2はD2Oの電気分解により、HDはH2とD2の接触同位体交換法(理論最大収率50 %)によりそれぞれ合成されているが、いずれもエネルギー多消費型のプロセスのため、市販品は極めて高価である。また、日本では輸入に頼っているため、触媒技術を用いた簡便な合成法が望まれている。 本年度は、合金ナノ粒子の精密制御ならびに塩基性反応場の設計から多角的にアプローチし固体(触媒)表面上でのH-D交換反応を制御による高価な重水素ガスを選択的合成を試みた。特にPdAg合金ナノ粒子を塩基性グラフェン上に担持した触媒が、高い選択性を示しつつ既存触媒の活性を3倍程度向上することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、さらに触媒のスクリーニングを行い、新規合成したナノ構造触媒を用いて、基本的な反応パラメーターを含めて触媒性能を精査し、最適性能を発揮できる触媒と反応条件の組み合わせを探索する。加えて、未検討事であるサイズ・形状・組成・構造を精密制御した合金ナノ粒子の影響も調査する。ここでの数値目標は、既報の触媒活性の一桁向上(TOF=1000h-1)と100%の選択性の達成である。 さらに、ギ酸-D2Oを重水素源とし、合金ナノ粒子の水素化能を利用した重水素標識化合物の簡便な合成法を確立する。狙った位置に選択的にD原子を導入できるピンポイント重水素化へと発展させる。例えば、C=O結合の水素化は、C=C二重結合水素化に比べて熱力学的に不利であるため不飽和カルボニル化合物のC=Oのみを選択的に水素化する技術が望まれている。申請者は電子豊富なカルボニル基吸着サイトと、電子欠損のC=C二重結合配位サイトが隣接した触媒表面を創成できれば、反応の加速はもとより、飛躍的な選択性の向上が狙えると考えた。そこで、金属合金ナノ粒子/塩基性担体表面を利用して、電子的配位子効果によりC=Oのみを貴金属活性点に選択的に吸着させる分子認識能を発現させ、C=O結合のみ選択的な重水素化にチャレンジする。
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次年度使用額が生じた理由 |
社会情勢上、購入予定機器の著しい納品遅延が見込まれたため、本年度は代替機器の性能見当が必要になった。このため未使用額が生じたが、これは次年度に代替機器の購入経費に充てる。
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