細胞マイクロアレイは、細胞応答の時間的な変動データを効率的かつ大量に採取するための強力なツールであり、多量のデータをAIで解析して新たな解決法を見出すことが可能となってきた今日では、その有用性はさらに高まっている。本研究では、既存の細胞マイクロアレイでは不可能であった、適切に培養液が交換された環境下で浮遊状態にて培養される浮遊細胞に関して、細胞応答の時間的変動データを様々な条件下で採取することを可能とする革新的な浮遊細胞マイクロアレイの創成を目的とする。 2023年度は、2022年度に開発を行った浮遊細胞を包括するマイクロドームについてドームの皮膜物性が内部の細胞の増殖に与える影響や、ドーム内でのリンパ腫細胞と他の細胞との共培養、ドーム内細胞への遺伝子などについて検討を実施した。その結果、マイクロドーム内で浮遊細胞と非浮遊細胞といった性質の異なる細胞を同時に培養できること、それらがある程度の分布を持った組織を形成することがわかった。また、ドームの皮膜に細胞接着性の材料を導入した場合とそうでない場合では、HeLa細胞において細胞周期の進み方が異なり、結果として薬剤への応答も異なることがわかった。さらに、ドームの皮膜に正電荷を示す材料を用いた場合と、負電荷を示す材料を用いた場合とでは、ドーム内細胞への遺伝子導入効率が異なり、そのコントロールが重要であることなどが新たにわかった。長期間の培養に関しては、数日毎の培地交換を行いながら最長30日程度の培養が可能であり、その培養過程で連続的に細胞周期の変遷の観察や増殖の評価、導入した遺伝子による蛍光タンパクの発現などの評価が可能であることを明らかにした。
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