植物病害の防除に用いられる農薬のうち、植物病原菌に到達する農薬は0.1%にも満たない。そこで本研究では、植物病原菌に選択的に送達可能な農薬封入キャリア粒子を用いた植物体外部からの植物病原菌の防除、遺伝物質を封入したキャリアナノ粒子を植物体内に導入して病害の原因となるたんぱく質の生成を阻害することで植物体内部からの植物病原菌の防除について検討することで、農業分野における農薬送達システムPDS技術の実現に挑戦する。 2023年度の研究では、農薬やRNAを封入するためのキャリア粒子として生分解性ポリマーの乳酸・グリコール酸共重合体であるPLGAナノ粒子を用いて、植物病害虫の防除について検討を行った。PLGAキャリア粒子への封入は、目的物質をアセトン溶媒に分散した後、分散安定化剤を添加した貧溶媒である水溶液と混合する貧溶媒希釈法を用いて行った。合成は、目的物質の濃度、油水比、水溶液中の分散安定化剤濃度やpHを調整することで、封入効率と含有率の最適化を行った。農薬原体を封入したPLGAキャリア粒子では、同農薬原体を含有した市販農薬と比較した。その結果、植物病原菌の中でも幅広い宿主範囲を持つ灰色かび病菌の原因となる植物病原菌Botrytis cinereaに対して90%減農薬できることを明らかにした。RNAを封入したPLGAキャリア粒子では、サイレンシング誘導により目的病害虫の防除効果は、封入しなかった場合と比べて1/10程度のRNA量で同程度の防除効果が得られることを明らかにした。以上より、PLGAナノ粒子をキャリア粒子と用いることで農業分野における農薬送達システムPDS技術の有用性が明らかとなった。
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