黒リンは、リン原子がボート型六角型に結合した構造を有しており、低バンドギャップを持つ二次元半導体物質である。大きなキャリア移動度を持つことや光触媒機能を持つことが報告され、基礎から応用まで幅広い分野で大きな注目を集めている。しかしながら、低バンドギャップにより、大気中で酸素により容易に酸化される反応不安定性や二次元物質に特有の層数に大きく依存するバンドギャップを持つため、応用に限界がある。そこでこれらの難点を克服するため有限の幅を持つ一次元構造である黒リンナノリボンが理論的に提案された。黒リンナノリボン構造は長軸・短軸で電気・機械・熱物性に大きな異方性を有するため、大きな熱電性能を持つことが理論的に示され大きな注目を集めている。これまでに報告された黒リンナノリボンの合成に関する研究で、黒リン結晶をアンモニア中で還元剤によりエッチング・分解させるトップダウンの手法のみが報告されている。しかしながら、このトップダウンの手法ではエッチングがランダムに起こるため、幅が10nmから数μmと非常に大きな分布を持ちナノリボンの幅を制御することができない。また理論研究で示された高性能物性値を示す数nmの分子スケール幅のものが得らない問題点がある。このため、分子スケール幅を持つ黒リンナノリボンを合成する新しいアプローチは、この分野で望まれている挑戦的課題である。本研究では、原理的に分子スケールでの極細幅を持制御できる前駆体を出発物質とする新しいボトムアップ合成法:レーザー誘起固相反応法を提案し、実証することを目的とする。今年度は、赤リンを前駆体として、高温溶媒中で電子供与体と反応させることにより 黒燐ナノワイヤーの合成を目指した。種々の条件での反応を有無を検討した。
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