研究課題/領域番号 |
22K18945
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 隼人 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 助教 (10595440)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | 光触媒 / 高速原子間力顕微鏡 / AFM / 触媒反応 / 酸化チタン / 抗菌 / ナノ計測 / ナノダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究ではナノスケールの表面構造や分子動態を動画で撮影可能な高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いて、固体触媒材料表面で生じるナノレベルの反応過程をリアルタイムにその場観察することで光触媒材料の抗菌機能のナノダイナミクスを明らかにすることを目的としている。本年は昨年度成功した酸化チタン表面で観察された脂質膜の分解過程を更に詳細に調べるため、酸化チタン基板上における脂質膜の展開条件を変えて分解過程の観察を試みた。基板全面に展開した脂質膜を高速AFMで観察中に紫外線を照射したところ、膜表面に突起構造が生じ、その突起が取れた部分で欠陥が生じる様子が観察された。そして、それらの欠陥が徐々に大きくなっていき脂質膜がアイランド状に分かれた。その後、各アイランドが小さくなっていき、やがてすべての膜が消失した。これらの観察から、光触媒反応における脂質膜の分解の各過程が明らかとなった。一方、平坦化した固体材料表面には特徴的な表面ナノ構造としてステップテラス構造が見られ、その構造と材料機能との関わりに興味が持たれている。そこで我々はこの構造に着目して脂質膜の分解過程の解析を試みたところ、これらの構造間で分解様式に顕著な違いは見られなかった。 次に、脂質膜の分解メカニズムを明らかにするため、脂質の種類を変えて分解過程の比較を試みた。本研究では、飽和脂質であるDPPCと不飽和脂質であるDOPCを用いて実験を行ったところ、DPPCよりもDOPCの方が明らかに速く分解することが分かった。これら2つの脂質分子を比較してみるとDOPCは尾部の炭化水素鎖に二重結合があるがDPPCにはなく、それ以外はほとんど同じであることから、尾部における二重結合の有無の違いが光触媒による分解反応の進行に重要な役割を果たすことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で達成を目指す光触媒反応のナノスケールでのダイナミクス観察として、紫外線照射下における酸化チタン上での脂質膜の分解を詳しく観察して解析することで、分解の各過程を明らかにすることができた。また材料機能と表面ナノ構造との相関を調べるため固体材料基板表面のナノ構造としてステップテラス構造に着目して脂質膜の分解様式の比較も行うことができた。更に、脂質分子の種類(組成)を変えてそれぞれの脂質の分解速度を比較することで、脂質分子の尾部における二重結合の有無が光触媒による分解反応の進行に重要な役割を果たしていることを明らかにできた。これらの結果は光触媒反応による脂質の分解メカニズムを解明する上で大きな手掛かりとなり得ることから、本年度は当該研究を大きく進展することができたと考えられる。また、本研究では光触媒材料に貴金属を担持し、金属担持光触媒基板上での生体試料の分解過程の測定も計画しているが、計画を前倒して光触媒基板上に貴金属を蒸着するための実験装置の準備と金を用いた予備実験を行うことができたことから当初の計画以上に進展することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
光触媒反応についてのこれまでの知見と本年度得られた成果をもとに光触媒材料上で生じている反応過程について考察し、それを実証するための検証実験を試みる。それにより、光触媒反応による脂質膜分解のメカニズムについてまとめ、光触媒材料の抗菌機能のナノダイナミクスを明らかにする。また、光触媒材料である酸化チタンは金を担持することにより触媒活性が向上することが知られていることから、紫外線照射下における金担持酸化チタン上での脂質膜の分解過程の測定を行う。そのためにまず酸化チタン上に担持する金の蒸着量や粒径などの条件を変えて蒸着することで、様々な金担持基板の作製を行い、それぞれの条件下での分解の比較を試みる。それにより、担持した金粒子のナノ構造と触媒活性との相関をミクロな視点で明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度に導入する予定で発注済であった観察試料を調製する際に使用する設備装置について、昨今の国内外情勢の影響で部品調達などに遅れが生じ、当初の納期から遅れたため、納品が年度を跨ぐこととなったため助成金の一部を繰り越しました。当該繰越金は前述の物品に充てる予定です。
|