研究課題/領域番号 |
22K18949
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤井 稔 神戸大学, 工学研究科, 教授 (00273798)
|
研究分担者 |
杉本 泰 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (40793998)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | シリコンナノ粒子 / メタフルイド / 円偏光 / 近接場 |
研究実績の概要 |
本研究は,可視光領域に低次のMie共鳴を有する結晶シリコンのナノ粒子を分散した溶液が,電気的共鳴と同等レベルの磁気的共鳴を有することに着目し,シリコンナノ粒子分散溶液のフォトニクスメタフルイドとしての特性を明らかにすることを目的とする.また,その光学素子材料としての有用性を実証する.Mie共鳴は粒子のサイズに強く依存するため,粒子サイズに分布があるとメタフルイドとしての特性が劣化する.そのため,本研究の成功は,溶液中のシリコンナノ粒子のサイズ分布をいかに低減するかにかかっている. これまでに,単一シリコンナノ粒子と同等の共鳴特性を示す溶液を大量に生成するプロセスを確立している.本年度は以下の研究を実施した. シリコンナノ粒子は電気双極子共鳴と磁気双極子共鳴を持つため,特定の条件において入射光の円偏光が保持されることが理論的に示されている.これは,シリコンナノ粒子により円偏光近接場を増強できることを示しており,この現象は光学異性体を高効率に分離する新技術の開発につながる可能性がある.前年度に引き続き,シリコンナノ粒子メタフルイドによる円偏光保存光散乱に関する研究を行い,その実証に成功した.得られた結果は,Nano Letters誌(インパクトファクター:12.3)に発表した.また,得られた結果の理論考察をさらに進め,シリコンナノ粒子メタフルイドにおける円偏光近接場増強に関する論文を,Laser &Photonics Reviews誌(インパクトファクター:11.0)に発表した.さらに,特定の条件下において,直線偏光の光を照射したシリコンナノ粒子が特定の方向に円偏光の光を放射する事を実証した.この成果は,非常に微小な円偏光放射ナノアンテナの開発につながる可能性がある.得られた結果は,Advanced Optical Materials誌(インパクトファクター:9.0)に発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ナノ粒子サイズの小さいシリコンナノ粒子メタフルイドを比較的大量に生成する技術を開発し,今後の研究をスムーズに展開する足がかりを構築した.さらに,シリコンナノ粒子メタフルイドの円偏光散乱特性について理論と実験の両面から詳細な研究を行い,今後の展開につながる多くの成果を得た.得られた成果をまとめ3編のWOS論文を発表した.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により,シリコンナノ粒子メタフルイドの重要な応用の一つとして,円偏光近接場の増強による光学異性体の高効率分離が非常に有望であるとの感触を得ている.そのため,この方向の研究を重点的に行う.これまでは,円偏光保存光散乱の実証のために非常に粒子密度が低い溶液を用いて実験を行ってきた.しかしながら,シリコンナノ粒子メタフルイドを光学異性体の分離に用いるためには高濃度の溶液が必要である.そのため,昨年度から溶液濃度と円偏光保存度の関係を実験的に明らかにするとともに,高濃度でより高い円偏光保存度を有するメタフルイドの開発に関する研究を始めている.今年度も引き続きその研究を行う.さらに,これまでは90度方向に散乱される光の検出によりシリコンナノ粒子メタフルイドの評価を行ってきたが,より詳細な解析を行うために異なる確度の散乱光の検出を行う.これにより,シリコンナノ粒子メタフルイドの特性を完全に明らかにする.並行して,シリコンナノ粒子メタフルイドのさらなる高品質化のための研究を実施する.そのために,ナノ粒子の分光評価装置の高性能化に必要な機器を購入する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果を実用レベルまで高めるためには,シリコンナノ粒子メタフルイドの高品質化への取り組みを継続して行う必要がある.一方,シリコンナノ粒子メタフルイドの品質はすでにかなり高いレベルに達しており,さらなる高品質化実現へのハードルは相当高くなっている.そのため,昨年度は研究の方向性の検討を慎重に行い,高品質化のための機器の購入を控えていた.昨年度の研究である程度目途が立ったため,今年度は密度勾配遠心法によるサイズ分離の高性能化とナノ粒子の分光評価装置の高性能化に必要な機器の購入を行う予定である.
|