研究課題/領域番号 |
22K18950
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川井 隆之 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60738962)
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研究分担者 |
高橋 康史 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (90624841)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 生体膜ナノドメイン / 走査型イオン伝導顕微鏡 / エレクトロスプレーイオン化 / 質量分析 / 固相抽出 / 電気泳動 |
研究実績の概要 |
生体膜では特定の脂質とタンパク質が自己組織化することでナノドメインが形成され,重要な生体膜機能を制御することが示唆されているが,内在性脂質を直接的に解析する分析手法が存在しなかった。そこで本研究ではナノニードルを用い,走査型イオン伝導顕微鏡 (SICM) により非標識で生体膜ナノドメインを可視化・採取し,その後ナノニードル内部でクロマトグラフィーや電気泳動によって試料の精製・分離を行い,最終的にナノエレクトロスプレーイオン化質量分析 (nanoESI-MS) によって高感度・網羅的に脂質分析を行うシステムを開発する。ナノドメインの時空間情報と脂質分子組成などの化学情報の両方を取得することで,生体膜ナノドメインにおける生命現象を捉えられる統合ナノ分析システムを構築することを目標とする。 まずHeLa細胞をモデル試料とし,新たにセットアップしたSICMでナノスケールイメージングを行ったところ,膜表面の微絨毛のナノ構造を捉えることに成功した。またナノニードルを用いて脂質のnanoESI-MS分析を試みたところ,nmol/Lオーダーの微量の脂質を良好な線形性で検出できることを確認した。続いて実際に細胞膜を採取して解析を試みたところ,安定的にシグナルを検出することが困難であった。これは膜の採取とともにPBSや細胞質などの夾雑物がニードルに採取され,イオンサプレッションが生じたことが原因であると考えられた。そこで,炭素鎖によって化学修飾したニードルを用いて脂質膜を吸引・吸着させ,有機溶媒を多く含む溶出液で溶出させることで分離・精製を行ったところ,複数の脂質を脱塩精製・分離してピークとして検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SICMを用いて生体膜のナノスケールイメージングと採取を行える体制を構築し,ニードル内部で脂質を生成・分離し,nanoESI-MSにて検出するという所定の目標をほぼ達成した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,人工膜に蛍光標識脂質プローブを添加し,顕微鏡で各ドメインの蛍光強度を測定することで脂質組成を定量する。これをナノニードルを用いたnanoESI-MS定量結果と比較することで,分析信頼性を評価する。2022年度に原理検証は完了しているため,主に分離効率と検出感度の最適化・安定化を実施する。また精製・分離原理としては,現在の逆相クロマトグラフィーモードに加えて,電気泳動による濃縮・分離についても検討を行う。これによって安定的に微量の脂質を解析可能なシステムを完成させる。 最終的に上記で確立した技術を用い,生体膜ナノドメインの時空間情報・化学情報を取得できることを実証する。培養細胞を対象に,ナノドメイン間で複数の脂質組成の差を定量できることを示し,神経突起などの生体膜構造における脂質の局在を明らかにすることで,従来技術では未解明だった新たな生命現象を解明することに挑戦する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
突発的な質量分析装置の故障によって研究が長期間中断することを防ぐため,修理費を確保して研究を推進したが,最終的に故障が発生しなかったため予算の次年度使用額が発生した。次年度はこれらの予算を合算し,計画通り主に消耗品・旅費・人件費に充てて研究を円滑に推進する。
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