研究課題/領域番号 |
22K18968
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
渡邉 信嗣 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 准教授 (70455864)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
キーワード | 特徴空間フィルタ / 微小電流計測 / 走査型イオン伝導顕微鏡 / 走査型プローブ顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、リアルタイムデータ処理が重要である走査型プローブ顕微鏡技術の一種である走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)に対して特徴空間フィルタを設計し、設計したフィルタが SICM 計測データの 信号雑音比(SNR)の改善および SICM の高速走査性能の向上に有効であるかどうか検証した。SICM 計測において信号はガラスナノピペット探針で測定する微小な電流変化である。雑音は主として探針や電流検出器から混入する。信号と雑音の物理モデルを構築し、高速走査に適する特徴量を選定し、雑音中の信号を探すように学習させることで分類器を設計した。作成した分類器をフィールドプログラマブルゲートアレイ( FPGA) に実装し、リアルタイムの SICM 計測を可能とした。作成した分類器に対して性能を数値計算により評価して再調整するモデルを構築し、性能向上をはかった。従来手法を用いて適切な SICM 計測を行うには、サンプリングした瞬間の信号レベルが雑音レベルを十分に超えることが要求される。これに対して特徴空間フィルタを備えた分類器は、サンプリングした瞬間の値ではなく、信号変化の履歴から適切な信号変化を推定するという違いがある。分類器と従来手法との性能比較の結果、SNR が低い状況では、分類器は従来手法よりも極めて高い性能を示すことがわかった。一方、SNR が高い状況では、分類器と従来手法に顕著な差が見られなかった。高速走査を行う場合、信号変化を高速で捉える必要があり、電流検出帯域の増加によって SNR は小さくなってしまうことを考慮すれば、本研究で提案する分類器によるフィルタリング手法は、SICM の高速走査において有用であることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作成した分類器を FPGA に実装しリアルタイムの SICM 計測を可能とした。また、作成した分類器と従来手法との性能比較の結果を行い、SNR が小さい状況において、分類器は従来手法よりも高い性能を示すことがわかった。この結果、本研究で提案する分類器は、SICM の高速走査において有用であることが示されたため、一年目の進捗としては、分類器の開発棟意味では大きな進展がった。一方で、実際の生細胞計測で分類器を使用するところまでは進めておらず、標準試料での性能評価にとどまった。
|
今後の研究の推進方策 |
ひとまずは、作成した分類器を生細胞計測に適応することを進めたい。また、分類器作成手順の大幅な自動化にも取り組みたい。分類器作成手順の枠組みは構築済だが、この分類機はSICMのプローブごとに特徴空間フィルタのチューニングが必要となっている。この調整は現在のところ手動でSICM信号の応答を見ならがらマニュアルで微調整しているため、性能は出せるものの使い勝手がよくない。この手順を自動化することで分類器チューニングの負荷を軽減することを目指す。さらに、分類器によるフィルタ手法をSICMの弾性率計測およびACモード計測にも拡張し、使い勝手の向上をはかる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
分類器の作成には成功したが、当初想定した生細胞計測に分類器を適応するところまで進めなかったため、細胞培養や、細胞計測かかる消耗品の購入が予定よりも少なかった。本年度は、生細胞計測を積極的に進め、これにかかる消耗品の購入に昨年度未使用分の予算をあてる。また、分類器の作成が想定よりもうまく進んだため、作成した分類器を細胞の弾性率計測や長時間測定に適応することを新たに年度後半に計画した。このための設備の購入を行ったが、一部の購入できなかった設備が残されているので、この購入にあてる予定である。
|