研究課題/領域番号 |
22K18972
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 秀和 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (80294130)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 遷移金属酸化物 / 2次元層状物質 / 酸化バナジウム / 六方晶窒化ホウ素 / 金属-絶縁体相転移 |
研究実績の概要 |
3d軌道に電子を有する遷移金属酸化物は強い電子間相互作用を持ち、その中には金属-絶縁体相転移(Metal-insulator transition:MIT)と呼ばれる巨大な抵抗変化を伴う相転移現象を発現するものがある。二酸化バナジウム(VO2)は室温近傍の340 K付近で3-4桁もの抵抗変化を伴うMITを示す。MITを活用したVO2薄膜素子において、MITを決定づける重要な要素である金属ドメイン生成に注目することが重要である。MIT中では絶縁相領域中に金属ドメインと呼ばれる空間的単位領域が不均一に出現し、絶縁相と金属相の共存状態が発生する。この金属ドメインサイズと素子のサイズによってMIT特性は決定されるため、金属ドメインサイズに関する情報は重要であり、かつこの金属ドメインを少数個取り出して電子物性を測定できれば、急峻な抵抗変化を示す素子がデザインできる。これまで、我々は2次元層状物質の一種である六方晶窒化ホウ素(hBN)上でVO2の薄膜成長を試み、VO2/hBN薄膜において金属ドメインサイズはドメイン生成がその場観察できるサブミクロスケールで、かつ急峻な抵抗変化がミクロスケールでのドメイン閉じ込めに由来して得られることを発見してきた。こうした利点を活用して、本研究ではhBN上にパルスレーザー堆積法でVO2薄膜を作製し、約2マイクロmの電極間ギャップを持つ電極を取り付けた素子を作製し、温度変化および電流印加時の電気伝導特性より相転移特性を評価した。電気伝導特性の測定時には、光学顕微鏡を用いたオペランド観察も同時に行い、ドメイン生成を有無を調べた。素子の温度変化に伴う電気伝導特性(RT特性)において、300Kから380Kまでの測定温度領域で、3桁の抵抗変化を観測し、良質なVO2薄膜が得られたことを確認した。また、相転移中350K付近に顕著な階段状の抵抗跳躍が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始する以前は、温度変化による良好な相変化現象を確認していたが、今年度はその結果に加え、特にスイッチグデバイス展開に向け、同一素子の電流-電圧特性(I-V特性)においては、電圧上昇に伴い、階段状の電流上昇が観測し、金属ドメイン生成に伴い階段状電流上昇が発生したことが明らかにした。本研究成果は、金属ドメインを活用したドメインエンジニアリング等の展開を期待させるものであり、本研究成果は応用物理学会誌Jpn. J. Appl. Phys.において論文発表を行ったため。
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今後の研究の推進方策 |
密度汎関数法に基づく第一原理計算(GGA+U)により、VO2, Fe3O4, SmNiO3とhBNの界面モデルについて、特に酸化物側第一層での原子配列と界面電荷分布の解析により結合様式を明らかにする。断面界面格子像の観察と計算結果を併せ、作業仮説を検証し、共有(イオン)/ファンデルワールス・ヘテロエピタシーの概念を確立する。2次元層状物質は容易に転写が可能であり、その薄さによりフレキシブルに変形可能である。作成したVO2/hBN薄片をプラスティックへ転写した状態での物性を評価する。これら材料は圧力印加で電気抵抗が大きく変わることが知られている。様々な下地材料へ移送した状態でも良好な物性を示しうるならば歪みセンサーをデモンストレーションするとともに、Fe3O4/hBN, SmNiO3/hBNなどへの展開を図る。
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