研究課題/領域番号 |
22K18973
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長久保 白 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (70751113)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | ピコ秒超音波法 / 非同期計測 / バイオセンサ / リアルタイムモニタリング / 超音波 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は非同期ピコ秒超音波法とナノ微細加工技術を組み合わせることにより、GHz-THz帯の超音波を用いた高感度・無標識・リアルタイムバイオセンサを開発することである。昨今も注目を集めているように、病気の診断や創薬の分野において特定のウィルスやタンパク質を検出する技術は欠かせない。特に高感度・無標識・リアルタイム・ハイスループットなセンサの開発が重要である。つまり蛍光物質などの標識剤を用いずに多数の検体を高感度で検査可能で、その反応過程をリアルタイムで観察することができるセンサの開発は未だに発展の余地がある。 そこで本年は非同期ピコ秒超音波法の更なる安定化・高速化・高精度化を目指した光学系の改築に取り組み、また理論計算を用いた振動子の最適化設計を行った。ピコ秒超音波法とは フェムト秒パルスレーザを用いて金属ナノ薄膜・ナノワイヤ中に波長10-100 nmの超音波を励起することができるポンププローブ超音波計測法である。非同期計測とはそこで用いるポンプ光とプローブ光のレーザの発振周波数をわずかにずらすことで応答信号を直接観測することができる手法である。本年は検出信号の応答性を向上させトリガ信号の時間決定精度を向上させるため、650MHzまで応答可能なバランスフォトディテクタを導入し、その応答に合わせて光学系を改築した。 またより高精度で共振周波数を計測することができるように振動子の改良にも取り組んだ。研究代表がこれまでの研究で提案した多層膜共振モデルと光多重反射モデルを用いて共振周波数が高くてGHz帯共振の励起・検出効率が高い膜構造を推定した。合わせて多層膜熱拡散モデル計算を用いてレーザ照射に伴う温度上昇を算出し、レーザ加熱がタンパク質に影響を及ぼさず、かつ共振周波数が高いセンサを見積もった。この計算に基づいて作製した共振周波数11GHzの振動子はQ値が従来より10倍程度向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は光学系の改良や試料構造の最適化計算などを進めることができ、おおむね順調に進展していると言える。モニタリング実験においては短時間で高精度に共振情報を取得することが重要である。そのためにディテクタの改良や、より安定したシステム構築を行った。ディテクタに関しては650 MHzの応答速度を持つディテクタを組み込むことによって80MHzの繰り返し周波数で発振するレーザ光を各パルス同士で反射光強度の差分を出力することに成功した。また安定化レーザの導入についても検討し、本研究においても新システムの導入に向けた仕様を決定することができた。 一方のGHz帯自立型SiN振動子の改良については理論計算に基づいて共振周波数・励起効率・検出効率を計算すると同時に、輸送行列を用いた過渡的熱拡散もシミュレーション計算した。これによりタンパク質固定化面における温度上昇も見積もることができるようになり、今後は理論計算と実験結果を比較しながら実際に作製した振動子の共振特性・熱特性を評価することができるようになった。またこの理論計算に基づいて試料を実際に作製したところQ値が10倍ほど高い振動子を作成することができ、本研究は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新たな2台のフェムト秒パルスレーザを用いた非同期ピコ秒超音波法システムの構築を進めつつ、2022年度までに蓄積してきた独自の非同期ピコ秒超音波法と高品質SiN自立振動子を用いてバイオセンサへの実証実験を進めていく。従来はフェムト秒パルスレーザ光源にチタンサファイアパルスレーザを用いてきた。このレーザは高い出力を得ることができる一方、強度や発振周波数の安定性は高くない。そこで出力は低いものの発振周波数が安定しているファイバレーザと光コムを導入する。これによりノイズの低減や安定性向上に伴う平均化によるSN上昇率の向上が見込め、同じ信号雑音比の信号を得るまでに必要な平均化回数・待ち時間を短縮することができ、高速・多チャンネル計測を推進することができる。 バイオセンサとしての性能を評価するために、抗原抗体反応のモデルとして黄色ブドウ球菌(SPA)とウサギ免疫グロブリンG(r-IgG)の結合反応を用いる。デバイス表面にSPAを固定化後、r-IgGを含む溶液をフローすると結合反応により表面の質量が増加する。異なる濃度の溶液に対して吸着に伴う超音波の変化を定量的に計測することで検出感度・限界を評価し、新たなバイオセンサとしての性能を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注した顕微鏡の納品が2023年度に確定したため、支払いは2023年度に行うことになった。このために未使用が生じたが、これは次年度に納品される顕微鏡の代金として支出する。なお納品が2023年度になる可能性は発注段階で考慮していたため、研究の進捗状況に影響はない。
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